HOME広報活動 > 開催報告

開催報告などを掲載しています。




平成27年12月16日

平成27年度 第6回 都医学研都民講座を開催しました

会場:一橋講堂

12月16日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「脂の質がもたらすヘルスサイエンス」と題し、京都大学大学院医学研究科皮膚生命科学講座教授の椛島健治教授を講師にお迎えして、第6回都医学研都民講座を開催しました。

今回の講演では、当研究所の村上誠研究員から、最初に「脂質がどういうものか」について説明がありました。脂質は核酸、タンパク質、糖質と並ぶ生体構成成分であり、水に溶けにくく、有機溶媒(油)に溶ける生物由来の分子です。次に、メタボリックシンドロームの発症メカニズムに関する説明がありました。本来脂肪を蓄える場所ではない臓器に脂肪が蓄積されるとインスリンが効かなくなるとのことでした。インスリンは代謝の維持に必須のホルモンで、正常に働くことができなくなるとメタボリックシンドロームになります。近年、日本人は魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸よりも肉などに多いオメガ6脂肪酸を摂る機会が増し、メタボリックシンドロームや糖尿病、動脈硬化症の人が増えたということでした。

続いて、椛島教授から皮膚の役割についてお話がありました。皮膚は重要な免疫臓器であり、時には「かぶれ」や「アトピー性皮膚炎」としてアレルギー反応が表出します。研究の結果、「かぶれ」は真皮の血管周囲で免疫反応が誘導されていることがわかったとのお話でした。それから「アトピー性皮膚炎」などについてのご説明があり、なぜ喘息や鼻炎等の他のアレルギー疾患と関連するのか、なぜ痒いのか、そこで脂質はどのような働きをしているのかなどについて臨床医の視点から分かり易くお話しいただき、聴講者も熱心に耳を傾けていました。

今年度東京都医学総合研究所では全8回にわたって都民の皆様向けに講演を行い、今後2回開催予定です。当研究所の研究内容の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきたいと思っております。

写真:上から、村上研究員、椛島教授




平成27年12月20日

サイエンスカフェ in 上北沢「血糖調節の仕組みとその異常 」

会場:東京都医学総合研究所

12月20日(日)、公益財団法人東京都医学総合研究所の講堂において、「サイエンスカフェin上北沢 血糖調節の仕組みとその異常」が開催されました。サイエンスカフェは、お茶や音楽とともに気楽な雰囲気の中で、身近なサイエンスについて研究者と自由に語り合う場です。

20回目のサイエンスカフェとなる今回は、血糖値について、当研究所の糖尿病性神経障害プロジェクトの三五さんご一憲研究員が話題提供をしました。まず血糖値とその変動パターン、75g経口ブドウ糖負荷試験などの説明後に、「血糖調節の仕組み」の解説がありました。食事により血糖値が上昇すると、膵臓のランゲルハンス島B細胞からインスリンが分泌され、血糖値を食前のレベルまで下げます。逆に血糖値が低下すると、ランゲルハンス島A細胞からグルカゴンが分泌され、血糖値を上昇させます。また血糖値の変化に伴い脳の視床下部が刺激され、上昇の際は副交感神経を介してインスリン分泌が促進されること、低下の際は交感神経を介してグルカゴンやアドレナリンの分泌が促進されることなどのお話がありました。それからインスリンの作用メカニズムや栄養素の血糖値への影響などを分かり易くご説明いただきました。

特にインスリン注射をしている糖尿病患者さんのケースで、「焼き肉はカロリーが高いから血糖は上がると思っていたが、実際には肉には糖質はほとんど含まれず、ご飯などの糖質を同時にとりながら食事をしないと血糖上昇が遅く、インスリンが早く効いて低血糖となる」というご説明には参加者が感心して聴き入っていました。 次に、世界の糖尿病の現状や我が国の糖尿病の現況、糖尿病の病型や「痩せた人が糖尿病にならないのは誤解」とのお話、糖尿病診断のための検査や糖尿病の臨床診断、糖尿病による合併症などについて、医師の視点から詳しいご説明がありました。

その後の体験実験では、参加者に手袋を着用して実験器具(ピペットマン※)を使ってもらい、7種類の試料を20~30分加熱処理して、メイラード反応(ブドウ糖とアミノ酸が作用して茶色く色づき様々な香り成分を生む反応)による溶液の色や香りを確認しました。メイラード反応は食品の調理や加工には有用ですが、糖尿病患者さんの体内で進行すると合併症の原因となります。

試料を加熱し、待っている間はミニコンサートが開かれ、ピアノ、バイオリンの美しい音色で参加者が癒されていました。別のコーナーではホットケーキ作成の実演(砂糖や卵を入れないとメイラード反応が進まず、白いホットケーキができる)、ポスターを使った研究概要の説明などを行い、参加者は熱心に見学していました。

他にも、研究員による血糖値測定のデモンストレーションを行い、血糖値の変化を参加者に見ていただいたり、アキレス腱の反射検査を行ったりと参加者が楽しめるイベントが盛り沢山でした。 工夫をこらした内容に、参加者からは「研究員の説明が分かり易く内容もとても面白かったです。」「研究者の方々の雰囲気が良かった。」「実験でピペットマンを実際に使わせてもらって嬉しかった。」「(ミニコンサートでの)音楽演奏が素晴らしかった。」といった声が多数寄せられました。

都民の皆さんの研究所として、今後ともこうした催し物を実施していきます。

※ピペットマン:上部のダイヤルを調節して、必要とする容量の液体を正確に測り取り、他の容器に移動させるための器具。

写真:上から、三五研究員、実験器具(ピペットマン)を説明、メイラード反応実験、ミニコンサート



平成27年11月25日

「世界脳週間2015講演会」を開催しました

会場:学校法人桜蔭学園

11月25日(水)、公益財団法人東京都医学総合研究所は、学校法人桜蔭学園において「のぞいてみよう脳神経科学」と題し、「世界脳週間2015講演会」を開催しました。

「世界脳週間」とは、脳科学の科学的な意義と社会にとっての重要性を一般の方々に理解いただくことを目的として世界的な規模で行われるキャンペーンです。日本でもこの「世界脳週間」の意義に賛同し、「脳の世紀実行委員会(現・特定非営利活動法人 脳の世紀推進会議)」が主体となり、高校生を主な対象として講演会等の事業が行われています。当研究所も、世界脳週間参加事業に参画し、当研究所の研究員を講師とした講演会を開催しました。

今回の講演会では、最初に、長野慎太郎研究員が「昆虫からわかる記憶の仕組み」と題し、「学習記憶のメカニズムを知って記憶力を上げる」というテーマでお話がありました。まず学習記憶研究には昆虫を含む様々な動物が使われていること、記憶を保持し続けるためには遺伝子発現が必要であることなどの説明がありました。中でも、ハエと人の脳の形は全然違うが、脳を作る神経細胞の形や機能、発現している遺伝子はほとんど同じであるという説明には、高校生たちの意外そうな表情が伺えました。この他にも、記憶の保持を良くするためには、繰り返し学習し、よく睡眠をとることが重要である、といった話が披露されました。

佐久間啓研究員は「赤ちゃんの発達を科学する」と題し、講演を行いました。最初に、小児科医の仕事、乳児健診などについてお話がありました。発達には、乳児健診が重要であり、赤ちゃんの発達は驚くほど定型的で、みな同じ時期に同じ順序で発達していくとのことでした。次に、赤ちゃんの運動発達についてお話がありました。運動発達は体の上から下へ向かって進んでいくこと(首の筋トーヌス※1がしっかりすると首が座り、背骨の周りの筋トーヌスが現れると背筋が伸びて座れるようになり、足にまで筋トーヌスが現れると立てるようになる。)、つまり筋トーヌスが上から下へ出現することで、赤ちゃんの姿勢・運動が発達するとのことでした。また、赤ちゃんが発達する時の脳の中での変化についてご説明がありました。一般的に脳内の髄ずい鞘化しょうか※2は脊髄や脳幹から始まり、次第に周囲に広がっていき、この進み方が上から下へという脳の発達の順序に関係しているとのお話でした。

最後に反射のお話がありました。赤ちゃんの唇に指で触れると吸い付こうとするなどの原始反射の説明のほか、Moro反射※3、姿勢に関する反射のことなどのお話がありました。反射はとっさの時に自分の身体を守るためのもので、速さを必要とするため主に下位の中枢が関係している一方で、原始反射は上位の中枢が成熟する事で消失していくとのことでした。

高校生たちは、興味深く耳を傾け、最初から最後までメモをとり、講演終了後も質問が絶えず熱心な講演会となりました。

※1 筋トーヌス:筋の伸張に対する受動的抵抗、または筋に備わっている張力。

※2 髄ずい鞘化しょうか:神経細胞の軸索を包む円筒状の層が形成されること。髄鞘化が進むことによって軸索に流れる電気信号をより速く伝達することができる。

※3 Moro反射:赤ちゃん特有の原始反射のひとつで、顔を正面にして寝かせてから頭をささえて少し引き起こし、急に頭部を支えていた手を緩めてみると、赤ちゃんが手を前に突っ張る仕草をすること。

写真:上から長野 慎太郎 研究員、佐久間 啓 研究員




平成27年11月12日

「第5回都医学研シンポジウム てんかん研究の最前線 原因遺伝子から最新治療まで」を開催しました

会場:一橋講堂

11月12日(木)、公益財団法人東京都医学総合研究所は一橋講堂において、「第5回都医学研シンポジウム てんかん研究の最前線 原因遺伝子から最新治療まで」を開催しました。日本各地の研究者や医療技術関係者に加え、当研究所からも新井信隆副所長をはじめ、多くの研究者が参加しました。

主催者代表として新井副所長の挨拶の後、当研究所脳発達・神経再生研究分野 林雅晴分野長の「小児の難治てんかん 臨床と研究」から演題発表が始まりました。治療法の進歩により小児てんかんの予後※1は改善しましたが、いまだに難治てんかんの予後は不良であること、剖検脳※2や患者さんの生体試料を用いて、ナトリウムチャネル表出、GABA(ガンマ・アミノ酪酸)作動性神経、モノアミン・アセチルコリン神経異常、酸化ストレス、オートファジーに関する研究を試み、治療法開発に役立つ知見を得てきたとの話がありました。

横浜市立大学医学部の才津浩智准教授は、網羅的遺伝子異常検出系を駆使して、てんかん性脳症の原因遺伝子を多数報告してきた世界の第一人者であり、大変分かり易くその方法を説明して頂きました。全国から検体を集め、次世代シークエンサーを用いてすべてのエクソン(たんぱく質をコードしている遺伝子部分)を解析し、異常を検出する様子はまさに圧巻の一言でした。 当研究所の山形要人研究員からは、結節性硬化症という難病では神経細胞のシナプスに異常があり、そのメカニズムを明らかにしたという発表がありました。新しいメカニズムに基づいて、既存の幾つかの薬が記憶障害やてんかんに有効であること、これらの薬が他の難治性てんかんや知的障害にも効く可能性があることなどが示されました。

新宿神経クリニック 渡辺雅子院長からは「高齢発症のてんかん」についてのお話しがありました。高齢者のてんかんは記憶の障害を呈することが多いため、認知症と診断され、治療が遅れるケースがあること、正しく診断されれば少量の抗てんかん薬で治療が可能なこと、などが発表されました。高齢者のてんかんも増加していると言われていますので、認知症との鑑別が重要であることを痛感させられました。

NTT東日本関東病院脳神経外科の川合謙介部長からは、てんかん外科治療は限局性病変に最も有効であること、最近は発作が消失しないケースも増えており、そのような症例に対して頭蓋内電極の改良・画像診断の向上・術式の改良が行われていること、さらに外科適応にならない症例に対しては迷走神経刺激療法などが始まっていること、などが発表されました。新しい治療法の開発が期待されます。

講演者はそれぞれの分野の第一人者であり、講演後は時間ぎりぎりまで質疑応答が続くなど、大変充実したシンポジウムとなりました。

公益財団法人東京都医学総合研究所では、研究者や医療従事者等を対象に最先端の研究領域や社会的注目度の高いトピックをテーマとしたシンポジウムを今後も毎年開催していく予定です。

※1 予後:病気や手術の後、どの程度回復するかの医学的見通し。

※2 剖検脳:死因、病変などを追及するために解剖、検査するための病死した患者の脳。

写真:上から林 雅晴 研究員、才津 浩智 准教授、山形 要人 研究員、渡辺 雅子 院長、川合 謙介 部長

ページの先頭へ