HOME広報活動刊行物 > April 2014 No.013

研究紹介

カルボニルストレスが亢進するタイプの統合失調症の特徴を同定

米国科学雑誌「Schizophrenia Bulletin」に統合失調症・うつ病プロジェクトの糸川昌成参事研究員・宮下光弘研究員らの研究成果が発表されました。

統合失調症・うつ病プロジェクト 研究員宮下 光弘

現在の日本で統合失調症の患者数は約80万人と推計されていますが、原因や病態はいまだに解明されていません。 私たちのプロジェクトでは、一部の統合失調症患者さんの血液中で、終末糖化産物の1種であるペントシジンという物質が増加し、ビタミンB6が低下していることを見つけました。 ペントシジンの増加とビタミンB6の低下は、有害なカルボニル化合物が体の中で異常に蓄積してしまうこと(カルボニルストレスの亢進)で生じます(図1)。 カルボニルストレスの亢進は腎機能障害、動脈硬化やアルツハイマー病などで生じていますが、私たちのこれまでの研究によって一部の統合失調症の患者さんでも生じていることが明らかになりました。

図1:カルボニルストレスと統合失調症

図

次に、私たちはどのような患者さんでカルボニルストレスが亢進するのか検証することにしました。 そこで、カルボニルストレスを反映するペントシジンとビタミンB6を用いて、156人の統合失調症患者さんの症状や経過の特徴を比較検討しました。 その結果、長期に入院していて、治療薬の内服量が多く、教育年数の短い患者さんたちで、カルボニルストレスが亢進していることがわかってきました。 統合失調症という病気は、お薬の治療が大変に重要ですが、今回の検証では、カルボニルストレスが亢進するタイプの患者さんは、お薬の治療でも治りにくい統合失調症(治療抵抗性統合失調症)によく似ていることが明らかになりました。 また、49人の患者さんの精神症状を調べたところ、ビタミンB6の値が低くなると症状が重くなることもわかってきました。

今回の私たちの研究によって、従来の薬では治りにくい治療抵抗性統合失調症の患者さんに対して、「カルボニルストレスを抑制する作用がある特殊型ビタミンB6(ピリドキサミン)を補充する」ことで治療できるのではと考え、臨床試験の準備を進めています。


参考文献

Mitsuhiro Miyashita, Makoto Arai, Akiko Kobori, Tomoe Ichikawa, Kazuya Toriumi, Kazuhiro Niizato, Kenichi Oshima, Yuji Okazaki, Takeo Yoshikawa, Naoji Amano, Toshio Miyata, and Masanari Itokawa : Clinical Features of Schizophrenia With Enhanced Carbonyl Stress, Schizophrenia Bulletin, 2013 Sep 23, doi:10.1093/schbul/sbt129

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