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研究紹介

H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスによる肺組織での広範囲な感染・増殖と修復機構の破綻が致死性重症肺炎の発症に関与

米国科学雑誌「American Journal of Pathology」に感染制御プロジェクトの小原道法副参事研究員らの研究成果が発表されました。

感染制御プロジェクト シニア研究員小原 道法

H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1 HPAIV)感染によるヒトでの被害は、1997年に香港で最初の感染患者が報告された後、2003年以降に東南アジアや中東地域を中心に感染患者が報告されています。 これまでに感染患者数648人、死亡者数384人とその致死率は約60%にも及んでいます。 現在、H5N1 HPAIVはヒトへの適応変異の獲得による世界的な大流行が危惧されています。 H5N1 HPAIV感染患者の死因は、主に重症肺炎によると考えられていますが、その病態進行と宿主の修復応答については不明な点が多く残されています。

本研究では、マウスモデルでのH5N1 HPAIV感染後の経日的な病態進行と修復応答について、低病原性インフルエンザウイルスであるH1N1(2009)パンデミックインフルエンザウイルス(H1N1 pdm2009)感染時との比較・解析を行いました。

ウイルス特異的抗体を用いた免疫組織化学的手法により、H5N1 HPAIVが気管支上皮細胞から肺組織の深部にある肺胞上皮細胞、血管内皮細胞など様々な細胞種に感染し、急激に増殖する事を明らかにしました(図1)。 また、H5N1 HPAIV感染に対して、免疫担当細胞の一つであるマクロファージが感染一日目以降に著しく浸潤する事及び肺組織障害の修復機構であるII型肺胞上皮細胞の増殖が感染三日目以降に顕著に観察される事を証明しました(図2)。 しかし、これらウイルス排除機構や修復機構が作用したにもかかわらず、マウスは回復できずに炎症性サイトカインの過剰産生を伴う重症肺炎を発症し、死亡しました。 一方、低病原性H1N1 pdm2009ウイルス感染は、主に気管支上皮細胞のみと限局的であり、肺組織深部まで到達しないために軽度の呼吸器症状にとどまると考えられます。

図1:H5N1 HPAIV感染細胞の免疫組織化学染色

図

H5N1 HPAIVを経鼻接種後、経日的に肺組織を採材し、抗H5HA抗体による免疫組織化学染色を行った。黒矢頭で示した茶色で染色されている細胞がH5N1 HPAIV感染細胞を示す。

図2:H5N1 HPAIV感染後のマクロファージ及びⅡ型肺胞上皮細胞数変化

図

H5N1 HPAIV染色後の経日的なマクロファージとⅡ型肺胞上皮細胞の増殖率を免疫組織化学染色像から算出した。

これらの結果から、H5N1 HPAIVは、肺組織での広範囲な感染と急激な増殖によって致死性重症肺炎の発症を引き起こしている事が示されました。 本研究成果は、H5N1 HPAIV感染によるひどい肺炎発症病態の解明に役立つだけでなく、治療薬の開発にも貢献できると考えられます。


参考文献

Ogiwara H, Yasui F, Munekata K, Takagi-Kamiya A, Munakata T, Nomura N, Shibasaki F, Kuwahara K, Sakaguchi N,Sakoda Y, Kida H, Kohara M
The American Journal of Pathology 2014 Jan;184(1):171-83. doi: 10.1016/j.ajpath.2013.10.004.

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