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April 2014 No.013
米国科学雑誌「PLOS One」に分子医療プロジェクトの芝崎太参事研究員らの研究成果が発表されました。
分子医療プロジェクト 参事研究員芝崎 太
ファブリー(Fabry) 病は、身体の代謝にとって重要な酵素であるアルファガラクトシダーゼA(GLA)を作る遺伝子の異常によりGLAができなくなり、細胞内に代謝産物が溜まることで激しい痛みや腎臓、 心臓および脳血管障害を来たす遺伝性難病です。 最近では的確な診断がなされれば、遺伝子工学で作った組換えGLAを点滴で補充する治療が可能になり、現在本邦でも600人以上の患者さんたちがこの治療を受けています。 最近の疫学調査により、とても稀な病気であると思われていたファブリー病は、日本人約9,000人に一人という比較的高い頻度で発症することが明らかになりました。
ファブリー病では、遺伝子異常によるGLAの量や質の異常は様々で、それに伴って患者さんの発症年齢や重症度も異なります。 例えばGLAの活性が10%前後の中間型ファブリー病患者さんの場合、中高年まで正常ですがその後、腎不全、心不全、心筋梗塞や脳卒中などの症状を来たすため、早期発見・治療が必要です。 一方、20-30%の活性を持つGLA異常の中には、特に治療を必要としない「機能的異型」と呼ばれるタイプも存在することが明らかになりました。 こうした機能的異型を示す人は、韓国人や日本人では、人口の0.5-1%にも及ぶといわれています。 このように複雑な病態を示すファブリー病において、個々の患者さんの病態を明らかにして、正しい診断や適切な治療へと繋げるためには、① GLA遺伝子の解析や、② 酵素活性測定だけでなく、③ GLA酵素タンパク質の量の測定が必須になります。しかしながら、これまで、 GLA酵素タンパク質の量の微妙な変化を血液で測定することは極めて困難でした。
そこで本研究では、血液中のGLA酵素タンパク質の量を超高感度に測定することを目的として、私達が開発した「高感度多項目測定(MUSTag)法」(図1)の改良と臨床評価を、シンセラ・テクノロジーズ社および明治薬科大学との産学共同研究により行いました。 その結果、測定時の夾雑物によるノイズを無くすことで、高感度に血液中のGLAを測定することが可能になりました(図2)。 これまでの遺伝子解析や酵素活性測定の結果と併せることで、それぞれのファブリー病患者さんの病態の違いを理解し、正確な診断と適切な治療へ導くことが出来ると期待されます。