HOME広報活動刊行物 > April 2014 No.013

研究紹介

C型肝炎ウイルスの増殖に必須な宿主因子を標的とした阻害剤作製

米国科学雑誌「Gastroenterology」に感染制御プロジェクトの小原道法副参事研究員・徳永優子研究員らの研究成果が発表されました。

感染制御プロジェクト 研究員徳永 優子

C型肝炎ウイルス(以下HCV)は国内に約200万人の感染者がいる極めて重大な感染症の原因ウイルスであり、感染すると慢性肝炎や肝硬変、さらに進行すると肝細胞がんを引き起こします。 近年、現行のペグインターフェロン療法に加えてHCV蛋白質を標的とした阻害剤(Direct-Acting Antiviral Agents; 以下DAA)の登場により、治療効果は向上しました。しかしながら、ウイルス遺伝子に変異が入ることによる薬剤耐性株が高い頻度で出現することなどが問題とされており、薬剤耐性獲得のない新たな抗HCV薬の開発が求められています。

私たちは、HCVが自己の増殖に利用する宿主因子を標的とした薬剤のスクリーニングにより、セリンパルミトイル基転移酵素阻害剤(SPT阻害剤)が強いHCV複製阻害作用を示すことを見出しました。 HCVは自己複製のために複製複合体を形成しますが、足場としてスフィンゴミエリンを利用しています。 そのため、スフィンゴ脂質合成を担うセリンパルミトイル基転移酵素の阻害剤は強力な抗HCV効果を示します。 本研究では、HCVの感染部位である肝臓に移行し易い肝臓特異的SPT阻害剤NA808を作製しました。

HCVの主要な遺伝子型である1a, 1b, 2a, 3a, 4aを感染させたヒト肝臓型キメラマウスにNA808を投与した結果、NA808はいずれのHCVに対しても強い増殖阻害効果を示しました。 また、NA808の抗HCV作用はDAAとの併用で増強し、検出限界以下にまで排除できることが示されました。 さらにNA808および臨床で使用されているHCV NS3プロテアーゼ阻害剤のtelaprevirによる耐性変異株の出現頻度を次世代シーケンサーによる全遺伝子配列解析により比較解析しました。 NA808投与によるHCV遺伝子の変異は検出されませんでしたが、telaprevirを処理したHCV複製細胞のHCV遺伝子には6箇所で12.9%~26.9%もの変異が検出されました。

肝臓特異的SPT阻害剤は、薬剤耐性株が出現すること無く幅広い遺伝子型のHCVに効果を示したことから、DAAとの併用で効果的に使用できる新たな抗HCV薬候補として期待されています。

図

参考文献

Katsume A, Tokunaga Y, Hirata Y, Munakata T, Saito M, Hayashi H, Okamoto K, Ohmori Y, Kusanagi I, Fujiwara S, Tsukuda T,Aoki Y, Klumpp K, Tsukiyama-Kohara K, El-Gohary A, Sudoh M, Kohara M.
A Serine Palmitoyltransferase Inhibitor Blocks Hepatitis C Virus Replication in Human Hepatocytes
Gastroenterology. 2013 Oct;145(4):865-73. doi: 10.1053/j.gastro.2013.06.012.

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