HOME広報活動刊行物 > April 2013 No.009

研究紹介

鎮痛にも依存にも影響するヒト遺伝子配列の差異を発見
~網羅的ゲノム解析の成果~

依存性薬物プロジェクトの西澤大輔研究員らの研究成果が米国科学雑誌「Molecular Psychiatry(モレキュラー・サイカイアトリー)」に発表されました。

依存性薬物プロジェクト主任研究員西澤 大輔

鎮痛薬に対する感受性(効きやすさ)には大きな個人差があり、痛みの治療をする上で大きな問題となっています。

また、依存の重症化にも大きな個人差があり、同じ依存性物質を同程度摂取しても、深刻な依存症に陥る人と、そうでない人がいて、治療や予防を行う上でも問題となっています。

このような個人差が発生する原因の一つに、遺伝的要因(各個人の遺伝子配列の違い)があります。そこで私たちは、画一的で強い痛みが生じる下顎形成外科手術(うけ口などの歯の噛み合わせの問題を矯正する手術)に注目し、その術後疼痛管理に必要な鎮痛薬量と患者さんの遺伝子多型(遺伝子配列の個人差)との関連を、ゲノムワイド関連解析(GWAS)(遺伝子全体のセットであるゲノムにおいて網羅的に遺伝子多型を調べる方法)によって調べ、2番染色体領域におけるrs2952768という遺伝子多型が、手術後24時間におけるオピオイド性鎮痛薬(モルヒネ、フェンタニル等及びそれらと類似する作用の鎮痛薬)の必要量と有意に関連していることを見出しました。

次に、この多型とオピオイド性鎮痛薬必要量との間に見出された関連性は、別の術式である開腹手術における術後疼痛においても再現されました。さらに、物質依存症患者及び他集団の健常者において、この多型のオピオイド感受性が低いと考えられる遺伝子配列の保有者では、低い依存重症度の指標及び、パーソナリティ質問紙における低い報酬依存スコアとそれぞれ関連していることも分かりました。

本研究のような成果(下記論文)により、今後は、事前に鎮痛薬必要投与量を予測して、早期からの適切な疼痛治療を行ったり、事前に依存症が重症化しやすいかどうかを予測して、予防や治療に役立てたりするなど、個々人の体質に合わせた疼痛治療及び依存症治療の発展が加速すると考えられます。

Nishizawa D, et al. Genome-wide association study identifies a potent locus associated with human opioid sensitivity. Mol Psychiatry. 2012 Nov 27. doi: 10.1038/mp.2012.164.

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