HOME広報活動刊行物 > April 2013 No.009

研究紹介

自閉症に対する新しい薬物治療

薬物プロジェクトの池田和隆参事研究員らの研究成果が英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に依存性発表されました。

依存性薬物プロジェクト 参事研究員池田 和隆

鎮痛薬に対する感受性(効きやすさ)には大きな個人差があり、痛みの治療をする上で大きな問題となっています。

また、依存の重症化にも大きな個人差があり、同じ依存性物質を同程度摂取しても、深刻な依存症に陥る人と、そうでない人がいて、治療や予防を行う上でも問題となっています。

自閉症は社会的相互交流障害、コミュニケーション障害、反復的・常同的行動を主症状とする発達障害です。自閉症の有病率は人口の1%以上ともいわれ、社会適応の困難が強いことが医学的、社会的に問題となっています。自閉症に対する薬物治療は、表面的な対症療法がほとんどで、社会的交流障害を改善する薬はありません。一方、結節性硬化症は自閉症を高率に合併し、自閉症を併発する疾患の中では頻度が最も高いものです。結節性硬化症の原因遺伝子はTSC1とTSC2のふたつで、それらの遺伝子からできる蛋白質はmTOR(mammalian target of rapamycinの略語。細胞内情報伝達をになう蛋白質の一つ)を介した、細胞内情報伝達系に属していて機能が良くわかっています。そこで依存性薬物プロジェクトでは東京大学発達医科学分野 水口雅教授及び、順天堂大学 樋野興夫教授らとの共同研究により、結節性硬化症のモデル動物を解析することで自閉症の病態解明を進め、自閉症の治療薬を探索しました。その結果、結節性硬化症1型、2型のモデルマウスに社会的相互交流障害があること、おとなのモデルマウスにmTOR阻害薬であるラパマイシンを投与すると、この障害が改善されること、2型モデル動物の脳内でmTOR系の遺伝子発現や蛋白質リン酸化に複数の異常があり、その多くがラパマイシンにより正常化することを見いだしました。これらの結果は、mTOR阻害薬を用いた薬物治療は自閉症の症状を成人患者においても改善しうることを示し、今後の薬物治療の可能性を大きく切り開きました。

Atsushi Sato, Shinya Kasai, Toshiyuki Kobayashi, Yukio Takamastu, Okio Hino, Kazutaka Ikeda, Masashi Mizuguchi

Rapamycin reverses impaired social interaction in mouse models of tuberous sclerosis complex.

Nature Communications 3, Article number: 1292 doi:10.1038/ncomms2295

Received 14 August 2012 Accepted 15 November 2012 Published 18 December 2012

図

図1:結節性硬化症モデル動物における社会的相互作用の低下とラパマイシンによる回復

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