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研究紹介

BTB-ZF タンパクであるZNF131 はリンパ球の細胞増殖を制御する

米国科学雑誌「The Journal of Immunology」にゲノム動態プロジェクトの宮武昌一郎研究室長、井口智弘研究員らの研究成果が発表されました。

ゲノム動態プロジェクト 免疫遺伝子研究室長宮武 昌一郎

1 研究の背景

様々な感染症を引き起こす病原体の侵入から体を守るしくみとして、免疫システムがあります。免疫システムを形成する細胞の多くは血液細胞に属します。血液の中だけでなく体の中のいろいろな場所で動き回り、病原体が侵入した場合に備えています。病原体を見つけると細胞増殖を起こし、数を増やしながら様々な方法で撃退します。免疫システムはよく軍隊に例えられますが、戦力として重要な要素が兵隊の数、すなわち免疫細胞の数です。非常にはげしく細胞が増殖すればそれだけ戦力が増え、攻撃力が増します。十分細胞数が増えなければ病原体に負けてしまいますが、逆に細胞数が増えすぎると病原体を排除するだけでなく、私たちの体に対してもいろいろな問題を引き起こします。自己免疫疾患と呼ばれるような病気は、このような状況と考えることができます。このことから、免疫細胞の増殖は巧妙に制御される必要があることがわかります。


2 研究成果の概要

これまで役割がよくわからなかったZNF131というタンパク質が、免疫細胞の一種であるリンパ球と呼ばれる細胞の細胞増殖をコントロールすることを見出しました。ZNF131は、p21と呼ばれる細胞増殖を抑制するタンパク質が産生されないようにしています。ZNF131が働かなくなるとp21が産生され、細胞増殖はほとんど止まってしまいます(図)。その結果、病原体が侵入した時、リンパ球の攻撃力が低下してしまうだけでなく、普段、病原体の侵入に備えているリンパ球の細胞数まで少なくなってしまいます。

図

一方、p21が失われると、自己免疫疾患を起こしてしまうことが実験動物で知られています(図)。年齢とともにリンパ球の増殖を抑えることができなくなり、それが自分の体を攻撃するようになってしまうわけです。またp21は、細胞の老化に伴って産生されるようになります。老化した細胞は、そのためしだいに細胞増殖できなくなっていきます。今回の研究成果により、p21の産生はいろいろな因子により精密にコントロールされることが必要で、ZNF131はそのコントロールを担う重要なタンパク質のひとつであるということが明らかになりました。


3 発見の意義

ZNF131を働けなくすると、細胞増殖が強く抑制されます。逆にZNF131を投与すると細胞増殖が促進される可能性があります。もし増殖する癌細胞でZNF131を働けなくすれば、増殖を止めることができます。また、iPS細胞の作成効率が悪い原因のひとつとして、p21が産生されていることが挙げられますが、ZNF131を投与してp21の産生を抑えることができれば、iPS細胞を作成する効率を上げることができます。リンパ球以外でZNF131が働く細胞の種類はまだわかっていないので、このようなことが実現できる可能性があるか、今後も研究を進めていく必要があります。


参考文献

Iguchi T, Aoki K, Ikawa T, Taoka M, Taya C, Yoshitani H, Toma-Hirano M, Koiwai O, Isobe T, Kawamoto H, Masai H, Miyatake S.
BTB-ZF Protein Znf131 Regulates Cell Growth of Developing and Mature T Cells.
The Journal of Immunology, 20150801,195(3):982-93. doi: 10.4049/jimmunol.1500602

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