Jul. 2018 No.030
英国科学誌『 Scientific Reports』 に松田憲之研究員(ユビキチンプロジェクト)と田中啓二理事長らが「 遺伝性パーキンソン病の発症にアルデヒドが関与する~パーキンソン病の発症原因の理解につながる発見~」 について発表しました。
ユビキチンプロジェクト リーダー松田 憲之
パーキンソン病は、神経伝達物質であるドーパミンを産生する神経細胞が失われることにより、安静時のふるえや歩行障害、姿勢保持障害、動作緩慢など様々な運動障害が起こる病気です。病状が進行すると寝たきりや車いすの生活になる危険性があります。日本国内だけでも15万人を超える患者がいる難治性の神経変性疾患であり、65歳を超えると1%以上の人が罹患するといわれています。社会の高齢化が進むにつれて患者数は増え続けており、パーキンソン病が発症する仕組みの解明と、早期診断法や根本的な治療法の確立が強く求められています。
私たちは遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子の1つDJ-1の分子機能について研究を開始しました。そしてDJ-1のゲノム構成や進化的保存性から、「DJ-1が生体内アルデヒド*1の解毒に関与している可能性」に着目して研究を進めました。その結果、ミトコンドリアでエネルギーを産生する時に重要な役割を果たす低分子化合物である補酵素Aと、内在性のアルデヒド(メチルグリオキサール※2)が反応した物質をDJ-1が分解して、正常な補酵素Aと無害な乳酸に変えることを発見しました(下図)。さらにパーキンソン病の患者さんが持つ遺伝子変異によって、DJ-1のこの働きが阻害されることを発見しました。
一連の研究結果からは、DJ-1がメチルグリオキサール*2というアルデヒドの解毒を介してミトコンドリアの機能を助けることで、パーキンソン病の発症を抑えていることが示唆されます。
ミトコンドリア機能に必須な低分子をアルデヒドから守る防御機構が破綻することで、パーキンソン病が発症するという観点の研究は殆ど行なわれておらず、本研究はパーキンソン病の発症機構に対する新たな展開の契機になると期待されます。さらに、本研究で示されたメチルグリオキサール - 補酵素A 複合体のような“アルデヒドの付加した低分子化合物”が、パーキンソン病の新しい分子診断マーカーになる可能性があるので、今後も研究を続けていきたいと考えています。
Parkinson's disease-related DJ-1 functions in thiol quality control against aldehyde attack in vitro.
Matsuda N, et al.
Sci Rep. (2017) 7:12816. doi:10.1038/s41598-017-13146-0.