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糖尿病性神経障害の病態に関与するアルドース還元酵素の遺伝子欠損シュワン細胞株を樹立

「Journal of Neurochemistry」に新見直子研究員らが 「糖尿病性神経障害の病態に関与するアルドース還元酵素の遺伝子欠損シュワン細胞株を樹立」 について発表しました。

糖尿病性神経障害プロジェクト 研究員新見 直子


1.研究の背景

末梢神経障害は糖尿病合併症の中でも早期に出現し、痛みやしびれなどを引き起こし、進行すれば足の壊疽(えそ)や突然死の原因にもなります。神経組織に取り込まれた過剰なブドウ糖は解糖系で代謝しきれず、アルドース還元酵素(AR)によりソルビトールに代謝されます(ポリオール代謝経路の亢進:下図)。しかし、この経路の亢進は酸化ストレスや最終糖化産物*1を増加させ、組織や細小血管を傷付けるため、これが末梢神経障害の原因と考えられています。ARはシュワン細胞*2で発現していますが、高血糖に伴うシュワン細胞での代謝経路の変化は不明です。


2.研究の概要・意義

今回、AR遺伝子を欠損した成体マウスの末梢神経を長期培養し、シュワン細胞株の樹立に成功しました。成人に多い糖尿病やその合併症の病態を解明する上で、成体マウスより樹立できた細胞株は、有用な解析ツールになります。この細胞株では、高ブドウ糖環境下でもポリオール代謝経路は機能していませんでした。一方、アルデヒドの代謝酵素群の発現が増加しており、ARはアルデヒドも代謝するので、この機能を代償していると考えられました。

図 細胞内のブドウ糖の代謝

細胞内のブドウ糖の代謝

過剰なブドウ糖は解糖系だけでは代謝しきれず、ポリオール代謝経路が亢進する。


3.今後の展望

本細胞株を用いて、ポリオール代謝が機能しない場合にどの代謝経路がより活性化されるのかを調べることで、糖尿病性神経障害に対する有効な治療薬の開発につなげられるのではないかと期待しています。また、ポリオール代謝亢進に伴う神経障害の発症機構の詳細を明らかにするとともに、ARの生理機能解明につなげたいと考えています。


用語解説

*1 最終糖化産物 :
糖が蛋白質に結合し、本来の機能が変性した蛋白質です。
*2 シュワン細胞 :
末梢神経に存在し、ニューロンの機能維持やミエリン形成に関与します。

参考文献

A spontaneously immortalized Schwann cell line from aldose reductase-deficient mice as a useful tool for studying polyol pathway and aldehyde metabolism.
Niimi N, Yako H, Takaku S, Kato H, Matsumoto T, Nishito Y, Watabe K, Ogasawara S, Mizukami H, Yagihashi S, Chung S, Sango K.
Journal of Neurochemistry. 2018 144(6):710-722, doi:10.1111/jnc. 14277

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