Jan. 2020 No.036
「Scientific Reports」に中山優季難病ケア看護プロジェクトリーダーらの研究成果が発表されました
難病ケア看護プロジェクトリーダー中山 優季
ALS(筋萎縮性側索硬化症)における病初期の体重減少は、進行予測因子の一つであり、BMI※2減少率が大きいほど、死亡或いは人工呼吸療法を必要とするまでの期間が早いことが知られていましたが、人工呼吸療法以降の進行との関係は、明らかではありませんでした。
気管切開人工呼吸療法(TIV)下のALS患者60例を対象とし、属性(性、発症年齢、罹病期間、TIV装着期間、発症からTIVまでの期間)、診断時からのTIV装着までのBMIの変化、TIV後の進行を示す症状として、意思伝達障害の重症度および、眼球運動障害、開閉口障害、排尿障害、完全四肢麻痺の有無と出現時期を調査しました。そして、診断時からTIV装着時までのBMI減少率が1.7kg/m2/年以上か否かで2群に分け、各調査項目の比較を行い、TIVまでのBMI減少率がTIV後の進行に影響を与えるかの検討を行いました。
その結果、BMI減少率が大きい群は、意思伝達障害ステージI※3である者の割合が有意に少なく、その期間も有意に短いことがわかりました。加えて、眼球運動障害、完全四肢麻痺、開閉口障害、排尿障害といった進行を示す症状の出現割合が高く、出現時期も早いことが明らかとなりました(図)。
つまり、TIVまでの病勢がTIV後の進行速度にも関係することを示し、病初期の体重減少がALSに特異的な、神経変性と関連した現象であることが示唆されました。
この発見は、TIVを装着したら、皆コミュニケーション不能になってしまうと恐れられていることに対し、体重減少が急激ではない例は、進行 も遅いという希望をもたらすものといえます。
病初期に体重減少をきたさないことが、その後の進行を遅らせることができるかもしれない、つまり、今後ALSにおける栄養療法の確立によって、難攻不落といわれてきたALSに対して、「何かできること」の一つになりうる期待が高まります。本研究は都立神経病院との共同研究により行われました。