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思春期児童における低筋力と精神病症状の関連における終末糖化産物の意義

統合失調症プロジェクト 協力研究員鈴木一浩

統合失調症プロジェクトリーダー新井 誠

古くから統合失調症患者さんには、やせ型、低筋力が多いことが報告されています[1]。これまでの大規模なコホート研究でも、10代後半の低筋力がその後の精神疾患発症のリスクであることが報告されています。しかし、その背景にあるメカニズムは、はっきりとわかっていませんでした。私達はこれまでに統合失調症の病態にAGEs[2]が関与する可能性を明らかにしています。そこで今回、私たちは低筋力がAGEsの上昇を引き起こし、それが精神病症状を生じさせるのではないかと着想し研究を行いました。本研究は東京ティーンコホートの参加者3,171名の思春期児童のうち、12歳と14歳時に尿検体を提供していただいた1,542名の思春期児童を対象に研究を行いました。12歳と14歳時において、筋力として握力を、AGEsとして早朝第一尿中のペントシジン値を測定しました。縦断的な解析の結果から、低筋力が続くことによりAGEsが上昇するということがわかりました。そこで、12歳時の低筋力が13歳時のAGEs上昇を介して、14歳時の思考障害を引き起こすのではないかという仮説について、256名の思春期児童を対象としたデータを用いて検討を行い、この仮説によって十分に説明可能な因果関係が存在しているようだということがわかりました(図)。これまでに低筋力と統合失調症との関連について多くの報告がありますが、今回の研究により、そのメカニズムとしてAGEsが関与している可能性があると考えられます。AGEsの上昇を防ぐための適切な運動や適切な栄養摂取は、予防策の一つとして重要になるのかもしれません。思春期はストレスが増大するライフステージであり、統合失調症の好発年齢です。出来る限り早期に気づいて適切な対処法をともに考えることが大切です。思春期から、低筋力やAGEsの値について注意深く様子を見守ることも意義があると考えられます。


[1]
クレッチマー(1988~1964)は、著書において体型と気質の関連を報告し、細長型において統合失調症になじみのある気質が多いことを報告した。これは抗精神病薬などの薬剤が開発される前の観察結果であり、この関連性は薬剤による影響を受けていないと考えられる。
[2]
タンパク質と糖が反応して産生される終末糖化産物の総称。老化や糖尿病等さまざまな疾患との関連が指摘されている。
図. 12歳握力、13歳AGEsと14歳思考障害の縦断関係
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