HOME刊行物 > Oct. 2022 No.047

Topics

神経変性疾患患者脳に蓄積する異常型タウ、αシヌクレイン及びTDP-43の構造学的、生化学的分類

認知症プロジェクト 客員研究員樽谷 愛理

認知症プロジェクトリーダー長谷川 成人

異常型に構造変化したタンパク質の細胞内蓄積及びその脳内拡大は、多くの神経変性疾患の神経病理学的特徴です。アルツハイマー病やピック病ではタウ、パーキンソン病やレビー小体型認知症ではαシヌクレイン、筋萎縮性側索硬化症ではTDP-43が病理を構成するタンパク質として同定されています。また、これらのタンパク質が蓄積する疾患群は、それぞれタウオパチー、シヌクレイノパチー、TDP-43プロテイノパチーと総称され、各プロテイノパチー内では多様な病理像が観察されます。患者脳に蓄積する異常型タンパク質は、アミロイド様の線維構造をとり、リン酸化やユビキチン化等の様々な翻訳後修飾を受けています。興味深いことに、同一プロテイノパチー内における異常型タンパク質の構造学的、生化学的性質は、疾患ごとに異なりますが、同疾患群では共通です。これは、一つの病因タンパク質から異なる高次構造を呈する異常型、すなわち構造多型が形成されることを示唆します。 最近では、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により、患者脳から抽出した異常型タンパク質の折りたたみ構造が明らかとなり、構造情報を基にした疾患分類も示されました。そこで我々は、タウオパチー、シヌクレイノパチー及びTDP-43プロテイノパチー患者脳に蓄積する異常型タンパク質の構造学的、生化学的分類について解説しました。さらに、神経変性疾患患者脳に蓄積する異常型タンパク質は、自身を鋳型に増幅し、細胞間を伝播することが実験的に証明されています。この実験的伝播において、患者脳由来異常型タンパク質の構造学的、生化学的性質が引き継がれることは、異常型タンパク質の構造情報が病理形成だけでなく、その脳内拡大においても決定的な意味をもつことを示します。我々は、神経変性疾患における構造多型形成の意義やその形成に関与する遺伝的、環境的要因についても議論しました。本総説で示される主要な神経変性疾患の構造学的、生化学的分類は、神経変性疾患の早期治療、診断を可能にする疾患修飾薬や抗体療法、分子プローブの開発に貢献することが期待されます。

図. 神経変性疾患患者脳に蓄積する異常型タンパク質の構造学的特徴
神経変性疾患患者脳に蓄積する異常型タンパク質の構造学的特徴

ページの先頭へ