HOME刊行物 > Oct. 2022 No.047

開催報告

2022年度 第2回 都医学研都民講座(2022年6月20日 開催)
「マススクリーニングが変える脊髄性筋萎縮症の未来」

こどもの脳プロジェクトリーダー佐久間 啓

佐久間プロジェクトリーダー
佐久間プロジェクトリーダー

今回の都民講座では、小児の難治性神経疾患に対する新生児マススクリーニングの試みについて取り上げさせていただきました。最初に東京女子医科大学の齋藤加代子先生が、病気の概要と治療法について説明されました。脊髄性筋萎縮症は脊髄の運動神経細胞が変性して失われていくために筋力が次第に低下し、小児期に発症する重症型では呼吸筋の筋力低下により人工呼吸器を使用しなければ生存できないという大変重い病気です。かつては治療法がない不治の病でしたが、近年画期的な新薬が次々に開発され「治せる病気」になりました。具体的には核酸医薬品や遺伝子治療薬品を用いて運動神経細胞の変性の原因である遺伝子の異常を修正するのですが、筋力低下が進行してしまった場合はこれらの治療薬をもってしても改善は見込めません。そこでできるだけ早期に病気を発見して、症状が出現する前に治療を開始することを目的として、生まれたばかりの赤ちゃんの血液を検査して脊髄性筋萎縮症を診断する試み(新生児マススクリーニング)が我が国でも始まっています。治療薬がなければ重い障害を残す可能性が高かった患者さんが、発症する前に治療を開始したことによって元気に成長していく姿がビデオで紹介され、講演の中でも最も印象的なシーンだったと思います。脊髄性筋萎縮症の診療をライフワークとされてきた齋藤先生の熱い思いが、『新生児マススクリーニングが必要です』というタイトルに表されていると感じました。

東京女子医科大学 齋藤先生
東京女子医科大学 齋藤先生

続いて東京医科歯科大学の水野 朋子先生より、日本における脊髄性筋萎縮症の新生児マススクリーニングの現状についてお話がありました。マススクリーニングの実施方法から問題点に至るまでとてもわかりやすく解説していただきました。このマススクリーニングが一部の都道府県では開始されているということでしたが、全国的に統一された制度の下で行われているわけではありません。全ての患者さんが治療薬の恩恵を受けることができるように、新生児マススクリーニングの体制を整備するとともに、国民のみなさんにもその重要性を理解していただく必要があります。

参加された皆様からは医学的な内容に踏み込んだ専門的な質問も寄せられ、この問題に対する関心の高さが伺われました。


ページの先頭へ