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開催報告

2022年度 第3回 都医学研都民講座(2022年7月22日 開催)
「ワクチン開発の過去・現在・未来」

感染制御プロジェクトリーダー安井 文彦

7月22日(金曜日)、「ワクチン開発の過去・現在・未来」と題して、東京大学医科学研究所教授の石井健先生を講師にお迎えして2022年度第3回都医学研都民講座をハイブリッド方式で開催しました。

まず、私から、「古くて新しいワクシニアウイルスベクターワクチンの開発」と題してお話ししました。ワクシニアウイルスは、有史以来、人類を最も苦しめてきた感染症の一つである天然痘の根絶に貢献したワクチンです。天然痘の根絶後の現在では、ワクシニアウイルスが持つ利点である副作用が少なく、免疫を誘導する能力が高いといった特徴を活かし、他の感染症や腫瘍溶解性ワクチンへの応用も期待されています。およそ200年前にイギリスの医師であるエドワード・ジェンナーによってはじめられたとする天然痘に対するワクチン接種の歴史や、そのワクチンであるワクシニアウイルスの特徴とワクチン・ベクターとして他の感染症への応用について、現在研究を進めている新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発を含めてお話ししました。

続いて、石井先生には、海外出張先であるトルコから「ワクチンのサイエンス;分子から倫理まで」と題してオンラインでお話しいただきました。新型コロナウイルスのワクチン開発で一躍注目を浴びたmRNAワクチンを中心にこれまでに開発されてきたワクチンの種類とそれらの免疫誘導のメカニズムについて、免疫学の視点から詳細にお話し頂きました。また、ワクチン研究が、従来の経験則から、免疫学や微生物学を基にした細胞レベルでの理解、さらには分子(遺伝子)の発現変化を基に構築したデータベースとそこから見出されるバイオ・マーカーの同定といった包括的なシステムワクチン学へと発展してきたことで、科学的な知見に基づいた有効性と安全性の高いワクチンの開発が進められていることを解説して頂きました。さらに、ワクチンの開発は感染症対策にとどまらず、アルツハイマー病等の神経疾患、動脈硬化症等の循環器疾患やがんを対象としたものに展開していることもお話しいただきました。

講演後には、「mRNAワクチンが今後の様々なワクチン開発の中心となる可能性」や「ワクシニアウイルスをベクター用いる上での安全性」に関する質問など、非常に的確な質問を多く頂き、ワクチン開発への関心の高さを実感いたしました。

安井プロジェクトリーダー、石井健先生
左から安井文彦プロジェクトリーダー、東京大学医科学研究所 石井健先生

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