東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

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2025年9月30日
社会健康医学研究センター西田淳志センター長・山﨑修道副参事研究員らの研究グループは「思春期女子のメンタルヘルス悪化と拡大する性差」について国際医学雑誌Nature Human Behaviour に発表しました。

思春期女子のメンタルヘルス悪化と拡大する性差

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 行動医学研究部 成田瑞 室長、キングス・カレッジ・ロンドン Gemma Knowles 講師、当研究所 社会健康医学研究センター 西田淳志 センター長・山﨑修道 副参事研究員、東京大学大学院医学系研究科 笠井清登 教授(東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)らの研究グループは、近年、思春期女子のメンタルヘルスが悪化し、男子との差(メンタルヘルス・ジェンダーギャップ)が拡大している現状を指摘しました。特に日本においては、2024 年に 20 歳未満の女子の自殺者数が男子を初めて上回った深刻な統計を踏まえて、社会的対応の必要性を強く訴えます。

本研究成果は、国際医学雑誌『Nature Human Behaviour』に日本時間2025年9月30日18時(英国時間:9月30日10時)にオンライン掲載されました。

原著論文情報

<論文名>
“The Silent Crisis in Girls’ Mental Health”
(女子のメンタルヘルスに迫る静かな危機)
<著者>
Zui C Narita, Gemma Knowles, Syudo Yamasaki, Kiyoto Kasai, Atsushi Nishida
<掲載誌>
国際医学雑誌 Nature Human Behaviour
DOI:10.1038/s41562-025-02322-2
URL:https://www.nature.com/articles/s41562-025-02322-2

背景

思春期の若者におけるメンタルヘルス問題は世界各国で深刻化しています。大規模な国際調査では、女子のメンタルヘルスの悪化によって、メンタルヘルスの男女間格差(メンタルヘルス・ジェンダーギャップ)が拡大していることが示されています。こうした国際的な知見を踏まえ、日本における最新の動向を整理することが求められています。また、関連していると考えられる社会的要因を明らかにすることが期待されます。

成果

今回のまとめでは、日本の厚生労働省統計をもとに、2024年に20歳未満の女子の自殺者数が男子を初めて上回ったことを示しました(図1)。女子は430人、男子は370人であり、10年前の「男子373人・女子165人」という傾向が逆転しています。これは日本における女子のメンタルヘルスの悪化が裏付けられた重要な事例であり、社会全体が直面する課題です。

図1.日本における20歳未満の自殺者数の推移
図1. 日本における20歳未満の自殺者数の推移

本論文では、このような傾向の背景に、従来のジェンダー規範に沿った期待に応えるだけでなく、社会的成功も同時に求められる二重のプレッシャー、インターネットの不適切利用、対面だけでなくインターネットを介した性的搾取、過剰なやせ願望、思春期の早期化など、複数の要因が複合的に関与している可能性を指摘しました。

社会的意義

これまで十分に注目されてこなかった女子のメンタルヘルス悪化を、国際的な知見と国内の統計を組み合わせて提示したことは、社会としての対応を喚起する上で重要な意義を持ちます。女子のメンタルヘルス悪化は、社会的要因と強く結びついていると考えられます。今後は、示唆された要因を因果媒介分析や交互作用分析を用いて厳密に検討し、エビデンスに基づいた予防策や支援策につなげていく必要があります。若者自身の声を反映させながら、社会全体の連携による包括的な対応が求められます。

本研究の主な助成事業

本研究は日本学術振興会(JP21H05171, JP21H05173, JP21H05174, JP23H05472, JP24H00666, JP25K20564, and JP25K20546)、日本医療研究開発機構(JP23wm0625001 and105 JP25oa0439005)、科学技術振興機構(JPMJPF2105 and RISTEX JPMJRS24K1)、ウェルカム財団(309118/Z/24/Z)の支援を受けて行われました。

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