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平成27年度 医学研セミナー

微量なリチウムと自殺予防

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演者 寺尾 岳(大分大学医学部 精神神経医学講座 教授)
会場 東京都医学総合研究所 2階講堂
日時 平成28年1月15日(金) 16:00~17:00
世話人 西田 淳志 副参事研究員(心の健康プロジェクトリーダー) 
参加自由 詳細は下記問合せ先まで
お問い合わせ 研究推進課 普及広報係
電話(03)5316-3109

講演要旨

リチウムは、原子番号3の元素であり、海水に含まれるリチウムの総量は非常に多く2300億トンと推定されており、土壌中にもわずかながら含まれる。1800年代から痛風や高血圧の薬として誤った使用がなされ、米国では熊印のリチウム水(Bear Lithia Water)として一般に売り出されたこともあったが、食塩の代用として売り出された塩化リチウムがリチウム中毒を引き起こすに至り、FDAから使用が禁止された。その後、1949年にオーストラリアのCade博士によりリチウムが躁病に効くことが発見され、デンマークのSchou教授によりその効果が検証されるに至り、精神科で使用されることになった。リチウムは双極性障害の治療に使われるが、リチウムの抗自殺効果も報告されている。リチウム濃度に関して、いわゆる治療濃度よりもかなり低い濃度でも効果が認められたという報告がある。たとえば、Dawson ら (1992)はテキサス州において、水道水のリチウム濃度が高い地域は精神病院への入院率が低かったと報告している。同じくテキサス州において、 Schrauzer とShrestha (1990)は、水道水のリチウム濃度が高い地域は自殺率が低かったと報告した。このような先行研究にならって、私どもも大分県内の全18市町村の水道水中リチウム濃度と、それぞれの地域における自殺の標準化死亡比との関連を検討し、有意な負の相関を認めた(Ohgami et al, Br J Psychiatry, 2009)。この研究では、水道水中リチウム濃度の測定点が少ないことと、自殺率に影響を与える可能性のある社会経済的要因などを考慮していないことが限界であった。そこで、我々は対象地域を大分県から九州全域(274市町村)に広げ、さまざまな要因で補正することにより、リチウムと自殺の関連をさらに検討した。その結果、男性においてのみ水道水リチウム濃度が高いほど自殺が少ないことが確認された(Ishii et al, J Clin Psychiatry, 2015)。しかしながら、気象条件に大きな違いがない九州での検討は、気象条件の影響を十分に調整できていなかった可能性がある。そこで、今回の研究においては、気象条件の大きく異なる北海道と九州のデータを一括して解析することで、水道水リチウムと自殺の関連を再検討した。その結果、やはり男性においてのみ水道水リチウム濃度が高いほど自殺が少ないことが再確認された(Shiotsuki et al, J Affect Disord, 2015)。発表当日は、他の研究者の結果なども示しつつ、この領域の研究の現況をまとめたい。

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