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平成27年度 医学研セミナー

ヒトiPS細胞を用いた新しい視神経疾患の研究

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演者 東 範行 室長(国立成育医療研究センター 眼科・視覚科学研究室)
会場 東京都医学総合研究所 2階講堂
日時 平成28年2月9日(火) 16:00~17:00
世話人 原田 高幸 参事研究員(視覚病態プロジェクトリーダー)
参加自由 詳細は下記問合せ先まで
お問い合わせ 研究推進課 普及広報係
電話(03)5316-3109

講演要旨

視神経にはさまざまな疾患があり、視神経が障害されれば重篤な視力障害が起こる。原因は、視神経炎、遺伝性視神経障害、虚血、外傷などさまざまあるが、中でも緑内障は我が国の主要な失明原因である。これまで、視神経疾患の研究には動物モデルが使われてきたが、病態や薬剤効果はヒトとはかなり異なる。一方、ヒトの視神経細胞(網膜神経節細胞とその軸索)は中枢神経であるので採取できず、ヒト細胞を用いた培養研究は殆ど行われなかった。動物でも網膜から視神経細胞を単離培養するのは難しく、軸索をもたず長期間生存できない。まして視神経疾患における再生医療は、動物実験でも行われていない。視神経疾患では軸索がまず障害の場となるので、視神経疾患の研究においては軸索をもつ視神経細胞を得ることが必要であった。

再生医療の分野では、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞の研究が進められており、中でもiPS細胞は患者皮膚等から疾患の素因をもつ疾患iPS細胞を作製して、疾患の原因・病態の解明、治療薬の開発に役立つことが期待されてきた。このためには、ES細胞やiPS細胞を分化させて目的の細胞・組織を作る必要がある。これまでに幼若な網膜を作ることは可能であったが、視神経細胞を作製することはできなかった。

これに対して我々は、ヒト iPS 細胞から長い軸索をもつ視神経細胞をin vitroで作製することに初めて成功した。作製した細胞は1~2cmの長い軸索を有しており、神経としての機能を示す軸索流や電気生理反応が認められた。このヒト視神経細胞の培養研究システムを用いることによって、さまざまな視神経疾患に対して、研究を行うことが可能となった。

疾患の原因や機序解明については、遺伝性疾患では患者由来細胞から疾患素因をもつiPS細胞を作製し、視神経細胞に分化させれば疾患細胞モデルとなる。緑内障や虚血などの非遺伝性疾患では、加圧や低酸素等のストレスを正常iPS細胞由来網膜神経節細胞に負荷して、モデルにできる。これらを用いれば、経時的に疾患の分子メカニズムを解明するとともに、神経保護薬・再生薬の効果判定を行うことができ、創薬への道が開ける。さらに、視神経移植や発生などの基礎脳科学の発展にも寄与することが期待できる。

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