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April 2017 No.025
英国科学誌「Human Molecular Genetics( ヒューマンモレキュラージェネティクス)」に認知症プロジェクトの田中良法研究員らの研究成果が発表されました。
認知症プロジェクト 研究員田中 良法
前頭側頭葉変性症(FTLD)は、大脳の前頭葉や側頭葉を中心とした萎縮によって、人格変化、行動障害、失語症や認知機能障害が緩やかに進行する疾患です。現在FTLDは、病変部位の細胞に蓄積する病因タンパク質の種類によって病理学的分類がなされていますが、プログラニュリン(PGRN)は不溶性のTDP-43という病因タンパク質が蓄積する遺伝性FTLDの原因遺伝子であることが明らかとなっています。PGRN遺伝子に異常があると、PGRNタンパク質の産生量が減少し、不溶性のTDP-43が蓄積するFTLDが生じることから、PGRNの機能は、TDP-43の蓄積及びFTLDの発症と密接な関係があると考えられています。近年、PGRN遺伝子欠損マウスを用いた解析などから、PGRNが細胞内消化の場であるリソソームの機能を制御している可能性が指摘されていました。そこで本研究では、PGRNがリソソームのどのような機能を制御しているかについて調べました。
細胞にPGRNを発現させると、リソソームの酸性化が亢進し、リソソームで働く活性型の酵素が減少することがわかりました。さらには、ソルチリン(SORT1)やカチオン非依存性のマンノース6リン酸受容体 (CI-M6PR)がPGRNをリソソームに輸送することがPGRNによるリソソーム酸性化亢進に重要であることがわかりました。一方で、PGRNの発現を抑制すると、リソソームで働くタンパク質の発現が増加することがわかりました。また、リソソームの酸性度が低い細胞種では、PGRNの発現低下によって、不溶性のTDP-43の蓄積が亢進することがわかりました。以上のことから、リソソームに輸送されたPGRNはリソソームの酸性化を介して、リソソームの機能及びリソソームタンパク質の産生を制御していることが明らかとなりました。さらには、GRNの発現低下によるリソソームの機能低下がTDP-43蓄積の一因となっている可能性が考えられました(図参照)。
リソソームにおけるプログラニュリンの機能的役割が明らかとなったことで、TDP-43が蓄積するFTLDや筋萎縮性側索硬化症(ALS)において、プログラニュリンやリソソームを標的とした新規治療法が開発されることが期待されます。
PGRNはSORT1やCI-M6PRによってリソソームへと輸送され、リソソームの酸性化を促進することで、リソソームの機能を維持する。プログラニュリンが減少すると、リソソーム機能の破綻が生じ、リソソームタンパク質の産生増加や不溶性TDP-43の蓄積亢進が生じる。
Tanaka Y, Suzuki G, Matsuwaki T, Hosokawa M, Serrano G,Beach TG, Yamanouchi K, Hasegawa M, Nishihara M.
Progranulin regulates lysosomal function and biogenesis
through acidification of lysosomes.
Hum Mol Genet. 2017 26(5):969-988.
doi: 10.1093/hmg/ddx011.