HOME広報活動刊行物 > Oct 2017 No.027

研究紹介

動物の意欲を司る2種類の線条体神経の活動と役割分担について解明

米国科学誌「Journal of Neuroscience」に夏堀晃世主席研究員らの研究成果が発表されました。

睡眠プロジェクト 主席研究員夏堀 晃世


1.研究の背景

線条体とよばれる脳領域に存在する2種類の神経(D1-MSNとD2-MSN)*1は、動物の運動や意欲行動(やる気)に対し、「アクセル」と「ブレーキ」として逆向きの働きをすると考えられてきました。しかしこれまで、D1-MSNとD2-MSNが逆向きの活動をしていることを、実際に生きた動物で観察した報告はありませんでした。


2.研究の概要

我々は、レバーを押すと餌がもらえるオペラントタスクをマウスに学習させ、マウスが意欲をもってレバー押しをしている最中の腹外側線条体のD1-MSNとD2-MSNの活動を計測しました(図1)。その結果、マウスの意欲行動中のD1-MSNとD2-MSN活動は逆向きではなく、全く同じパターンを示すことが分かりました(図2)。

次に、D1-MSNとD2-MSNの活動を様々なタイミングで人為的に抑制したところ、どちらもマウスがレバー押しの意欲を失くしたことから、D1-MSNとD2-MSN活動はどちらも意欲行動に必要であることが分かりました。

マウスがレバー押し行動を開始する前(マウスにレバーを提示するタイミング)にD1-MSN活動あるいはD2-MSN活動を抑制すると、マウスがレバー押しの意欲を失くしたことから、D1-MSNとD2-MSN活動はどちらも意欲行動を開始するのに必要であることが分かりました(「やる気スイッチ」と同定)。一方、マウスがレバー押し行動を開始した後にD1-MSN活動を抑制すると、マウスがレバー押しの意欲を失くしたことから、D1-MSN活動は意欲行動を持続させるのにも必要であることが分かりました。一方、レバー押し行動開始後にD2-MSN活動を抑制しても、マウスの意欲は変化しませんでした。

本研究は、慶応義塾大学医学部 精神・神経科学教室の田中謙二准教授、三村將教授、北海道大学大学院医学研究科の渡辺雅彦教授らとの共同研究によるものです。

オペラント課題

用語解説

*1 D1-MSN及びD2-MSN :
神経伝達物質であるドパミンの2種類の受容体(D1あるいはD2受容体)をもつ神経。dopamine receptor type1 (type2) -expressing medium spiny neuronsの略。ドパミンがD1受容体に作用すると神経細胞(D1-MSN)が活性化し、【やる気スイッチ】では?と注目されています。対してドパミンがD2受容体に作用すると神経細胞(D2-MSN)の活動が抑制されることが知られ、D2-MSNはやる気を抑える役割を担うのでは?と考えられていました。しかし今回の研究で、D1受容体とD2受容体をもつ神経細胞はどちらも【やる気スイッチ】の役割を担うことが分かりました。

参考文献

Natsubori, A., Tsustui-Kimura, I., Nishida, H., Bouchekioua, Y., Sekiya, H., Uchigashima, M., Watanabe, M., de Kerchove d’Exaerde, A., Mimura, M., Takata, N. & Tanaka, K.F.
Ventrolateral striatal medium spiny neurons positively regulate food-incentive, goal-directed behavior independently of D1 and D2 selectivity. Journal of Neuroscience, 2017, 37(10), 2723-2733. doi: 10.1523/JNEUROSCI.3377-16.2017.

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