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April 2019 No.033
脳機能再建プロジェクトリーダー西村 幸男
会場の様子
2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと一年にまで迫ってきました。選手選考会も始まりつつあり、テレビでは候補選手の動向が流され、選手ばかりでなく観衆である国民の緊張感も高まってきています。我々、東京都医学総合研究所では東京オリンピック・パラリンピックのホストシティとして、学術面から東京オリンピック・パラリンピックを盛り上げるために、平成30年11月30日(金)に「スポーツ脳科学」をテーマに第8回都医学研シンポジウムを開催いたしました。
柏野牧夫先生(NTTコミュニケーション科学研)は、最新のウェアラブルセンサーと高速度カメラを使ったプロ野球選手の調査から、打撃の上手さは無自覚的な視覚制御によるものであることを示されました。荒牧勇先生(中京大)は、MRI装置で脳を解剖学的に調査し、アスリートに特化した脳構造があることを示されました。中澤公孝先生(東京大)は、脳損傷があるパラアスリートの脳活動の研究から、トップパラアスリートの大脳皮質で起こる特徴的な再組織化と代償機能があることを示されました。諏訪部和也先生(筑波大)は、低強度運動によって海馬の活性化・神経の新生が生じ、認知機能も向上し、運動が認知症予防になることを示されました。著者の西村幸男(都医学研)は、運動準備前の中脳の活性が、意欲と運動パフォーマンスが大きく左右する原因になっていることを示しました。彼末一之先生(早稲田大)は、一般人が頭で考えてもできないようなスポーツでの複雑な動作は、長年繰り返されるハードトレーニングによって自動化されることを示しました。
これまでも、1964年の東京オリンピックを境に、体格や筋肉、呼吸循環器系、動きを捉える運動力学などを中心としたスポーツを科学的に理解しようとする試みがなされ、その成果がスポーツ選手のトレーニングに生かされてきました。一方で、今回のシンポジウムで取り上げたようなスポーツの技術面や心の問題を脳科学的に理解することは、それを計測する装置がなく、あまり発展しておりませんでした。
今回のシンポジウムを皮切りに、最新の解析装置を用いたスポーツ脳科学研究が発展し、スポーツ選手育成や国民全体のスポーツによる心と身体の健康の向上に寄与できる機会がもっと増えるように東京都医学総合研究所は研究・シンポジウム等を企画しますので、今後も是非、ご注目頂けましたら幸いです。
左から西村研究員、柏野先生、中澤先生、彼末先生、荒牧先生、諏訪部先生