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開催報告

第19回 都医学研国際シンポジウム(平成31年2月8日開催)
Preventive medical research in areas of psychiatry, health, and social welfare:
Beneficial life course intervention in critical and sensitive periods for glycation, oxidative stress, and nutritional epidemiology

統合失調症プロジェクトリーダー新井 誠

会場の様子

本会議は幼少期~思春期~青年期~老年期というライフコースにおける身体的、精神的な健康の根底にある分子基盤を理解したいという思いから企画を致しました。当日は思春期発達、栄養疫学、食品科学、疾患医学といった領域横断的な幅広い分野の14名の先生方をお招きし、オリジナリティーある最先端の研究について活発な議論が行われました。これまで、糖化や酸化ストレスを基盤とする研究は、食品分野や糖尿病といった身体疾患分野において着目されてきた経緯がありますが、近年ではメンタルヘルスにも関心が集まってきています。る情報は、本研究所における、がん、神経変性疾患、精神疾患の解明に向けた研究にも大きな洞察を与えました。

はじめに、Richards先生が英国における幼少期から老年期に渡るコホート研究をご紹介され、幼少期における不安や抑うつなど、感情症状が老年期における認知機能やウェルビーイングといった予後と関連しているといった極めて重要な知見が述べられました。佐々木先生は各国の主食背景の具体例から栄養調査研究データが持つ真の意味と分析の重要性を語られ、Thornalley先生はブロッコリー由来の成分が糖化や酸化ストレスから保護的な作用を持つことなど最新の知見をご紹介頂きました。非侵襲的手法で糖化を測定する技術開発に尽力された永井先生からは、糖尿病合併症の予測や疾病のスクリーニングに本機器を役立てたいという研究成果の一端について、また、Tessier先生からは食品中の糖化産物が肺、腎臓、脳などの臓器に貯まるしくみをマウス実験から紹介され、サクシニル化という化学反応に注目して研究されているFrizzell先生は、Leigh症候群の分子基盤の一端に関わる貴重なご発表をされました。

午後セッションでも精神科領域でのヒト研究の一端について、門司先生、Rabbani先生、篠原先生が酸化ストレスと炎症との関連、自閉症と糖化産物との関連、ビタミンと認知症との関連といった視点からご講演され、続いて、Chiang博士は細胞モデルを用いて、インドール硫酸がサルコペニアと呼ばれる骨格筋量・筋力の低下に関連すること、また、稲城先生は小胞体ストレスやミトコンドリア機能障害と腎障害の病態生理や小胞体とミトコンドリアの間でクロストークする分子基盤と炎症とのメカニズムをご紹介されました。Nagaraji先生は白内障患者の水晶体(嚢)の白濁の大きな要因の新たな分子機序、Pischetsrieder先生は分析科学の視点から食品成分がタンパク質修飾の形成にどのように影響を与えるかを最新分析手法も含めてご紹介を頂きました。本会議の最後にご登壇を頂きました山本先生からはオキシトシンというホルモンが腸管を通過して血液循環へと輸送される分子機序についてマウスの実験系からご紹介頂き、大変興味深いご講演を最後に本シンポジウムが終了しました。

当日は寒さも厳しい中、大学、公的機関、企業の皆様や学生の皆様にご参加頂きました。本会議の開催前には、どの先生からも異分野すぎて話がまとまらないのではないかといった不安の声がありましたが、会議後には異分野であるからこその新たな視点で議論が実現でき、大変に満足しているとのお便りを頂くことができました。これまで身体疾患研究において見出され蓄積されて来た研究成果が本シンポジウムで有機的に結びつき、Rabbani先生の自閉症と関連する糖化酸化マーカーの同定は、精神医学分野においても病態解明や新規治療戦略の糸口となり、今後の予防医学的介入の発展に向けて大きな希望が見いだされたように強く感じます。

このような国際シンポジウムにご協力、ご支援を頂きましたすべての方々にあらためて感謝を申し上げます。最後に、本会議での議論が精神保健福祉や公衆衛生、予防医学への新たな社会貢献につながることを願い、近い将来、同様の国際シンポジウムで皆様にお会いできますことを心より願っております。

集合写真

集合写真

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