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開催報告

第6回都民講座(平成30年12月20日開催)
「加齢に負けないしなやかな脳」

運動障害プロジェクトリーダー筧 慎治

第6回都民講座

会場の様子

よみうりホールにおいて、「加齢に負けないしなやかな脳」というテーマで、講師に東京医科大学主任教授・羽生春夫先生及び同大学医学教育推進センター長・三苫博先生をお迎えし、第6回都医学研都民講座を開催しました。今回は都民講座としては初の試みで、平日夜間の開催となりました。

まず、羽生先生から、「生活習慣から認知症を予防する」と題してお話しいただきました。

認知症のうち過半数を占めるアルツハイマー病は、残念ながら未だ根治的な治療法の見通しが立たない状況にあります。しかし様々な疫学的調査から、発症の促進因子と防御因子がわかってきており、促進因子を減らし、防御因子を増やすような日常生活を実践すれば、認知症の発症や進行を遅らせる可能性があります。例えば促進因子としては、高血圧や糖尿病等の生活習慣病、防御因子としては、ライフスタイル、運動習慣や知的活動等が挙げられるそうです。特に、生活習慣病を適切に治療することにより、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)から認知症への進展を、ある程度抑えることができるそうです。

一方、高血圧や糖尿病のコントロールを放置した場合は、脳の動脈硬化や梗塞が進行し、それにともなってアミロイドβの産生が促進したり、分解の障害が起こるため、神経細胞が失われやすくなり、認知症が進行しやすくなるとのお話でした。

続いて、三苫先生から、「病気・加齢から脳を守る仕組み」と題してお話しいただきました。

加齢や神経疾患により脳の神経細胞は障害を受け、やがて失われ、認知症等の神経症状を発症します。残念ながらこれらの失われた神経細胞を補い機能を回復する治療法はありません。しかし、最近になり、脳には加齢や病気により失われた機能をある程度代償し、回復する潜在能力である「脳の予備能」があることが分かってきました。この脳の予備能による機能回復の発動は、脳の障害の比較的初期に限られるそうですが、動物園等の飼育動物に対する「環境エンリッチメント(飼育環境を豊かに充実させ、動物のあるべき行動を引き出すこと)」の考え方を人間の生活に応用し、日常生活を工夫することで、脳の予備能を活かした回復を期待できるとのお話でした。

先生方のお話を総合いたしますと、生活習慣病に適切に対処しつつ日常生活を工夫することにより、認知症の発症や進行を遅らせる希望が見えて来たように思われました。

演者の写真

三苫先生、羽生先生

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