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開催報告

第2回 都医学研 都民講座 (2019年6月8日開催)
脳を知ろう

神経細胞分化プロジェクトリーダー岡戸 晴生


左:岡戸晴生 研究員、右:池谷裕二 先生

「脳を知ろう」と題して、6 月8 日(土曜日)、調布市グリーンホールにおいて、第2 回都医学研都民講座を開催しました。講師には、東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷裕二先生をお迎えしました。

最初に私が脳の発達が環境により影響されることに関してお話ししました。歴史的な出来事として、養育環境や栄養がその後の脳の発達に影響するということをご紹介しました。例えば、1960 年代のルーマニア、チャウセスク独裁政権の人口増加政策により急増した乳幼児が国営施設に収容され、不十分な養育環境のため、発達指数が低下し、また、1945 年、ナチスによる港湾封鎖によりオランダで冬の大飢饉が起き、その時期に胎児であった子が成人病のほか、統合失調症になりやすくなりました。これらの事例は、脳にとって、発達期の養育環境や栄養環境がとても重要であることを示しています。私たちは、マウスを用いて、発達期の環境要因として、母子分離ストレスや砂糖過多食が、いずれも行動及び脳の毛細血管に異常をきたすという実験結果を得ており、ご紹介しました。今後、そのメカニズムを明らかにしに、その回復法を見出すことを目指します。

その後、池谷先生が「脳の潜在知覚を拓く」というお話しをされました。例えばヒト同様にネズミは東西南北がわかりません。しかし、池谷先生は地磁気の情報を脳に送り込むことによって、方角を認識できるネズミの作製に成功しました。このことは、もし人が感知できない、様々な知覚情報を脳に送れば、脳の性能をもっと活用できる、ということを示しています。最近、池谷先生は脳と人工知能(AI)を融合する研究を開始されましたので、脳が身体からの制約を解かれ、飛躍的な活躍ができるようになることが期待されます。人が気付くかどうか、から始まり、マウスの実験、脳と人工知能、脳の存在意義、なぜ人が存在するのか、殺人はなぜいけないか?等、科学から生命に対する包括的な認識を深めた、とても興味深いお話でした。

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