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開催報告

第3回 都医学研 都民講座(2019年7月14日開催)
赤ちゃんの脳をすくすく育てる

神経回路形成プロジェクトリーダー丸山 千秋


左:多賀厳太郎 先生、右:丸山千秋 研究員

7月14日、京王線調布駅の目の前にある調布市グリーンホール大ホールにて都民講座を開催しました。「赤ちゃんの脳をすくすく育てる」と題し、まず前半は私から「脳はどのようにしてできるのか? ─ ニューロンから脳へ ─ 」というお話をしました。ヒトの大脳新皮質は6 層構造であり、胎児期にできるこの層構造に乱れがあると、重い場合には脳梁欠損等の脳形成障害が現れ、軽い場合でも神経回路の形成不全により、精神疾患を発症するリスクがあることがわかってきています。また、妊娠中のストレスが胎児に与える影響として、「オランダ飢饉の冬」と呼ばれる大規模なコホート研究があります。妊婦が栄養失調の場合、生まれてくる子どもの生活習慣病や統合失調症等の発症リスクが増大し、また精神的ストレスがある場合にも、自閉症等の精神疾患発症のリスクの高まることがわかってきているというお話をし、妊娠中の母体や胎児の環境がいかにその後の脳発達に重要かについて解説しました。さらに、脳をすくすく育てる上で大事なことは、適切な時期に適切な五感からの刺激を与えることで、シナプスが刈り込まれずに発達するという臨界期の仕組みについてお話ししました。続いて後半は、東京大学教育学部教授、多賀 厳太郎先生から、「赤ちゃんと脳 ─ 発達脳科学から知の起源を探る ─ 」と題してお話しいただきました。近年、近赤外分光法(NIRS)等の脳の計測技術が発展してきており、これを使って、赤ちゃんの脳の構造やネットワークが発達していく様子を計測できるようになってきたということです。これにより、生後3 ヶ月の赤ちゃんでも、物を見ているときには、後頭葉の視覚野が活動し、言葉を聞いているときには、聴覚野が活動しており、視覚や聴覚の情報が大人と同様の脳部位でそれぞれ処理されていることがわかったというお話しをしていただきました。さらに、赤ちゃんに話しかける場合、普通の話し方と抑揚のない話し方とでは、脳の活動に大きな差が見られるという興味深いお話もありました。また胎児期や新生児期に見られる自発的な運動(General Movement)が発達中の脳の自発活動に由来するもので、この動きを観察することで自閉症の早期診断にもつながり得るというお話もありました。講演後のアンケートでは、「妊娠中のストレスが胎児に与える影響は大きく、孫の世代にまで影響を及ぼすことがあると知り、驚いた。」「適切な刺激を与えることの重要性がよくわかった。」といった御意見を多く頂きました。

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