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開催報告

第1回 都医学研 都民講座 (2020年9月18日開催)
聞こえの低下を防ぐには?治すには?

難聴プロジェクトリーダー吉川 欣亮

本年度第1回目の都民講座を慶應義塾大学の藤岡正人先生をお迎えして、オンラインにて開催しました。テーマは「難聴の予防・治療」です。

はじめに私の方から「聞こえの低下に影響を与える様々な要因」と題して話をさせて頂きました。難聴は新生児1,000人に1人と高い頻度で発症し、遺伝的な素因が大きく関係する病気ですが、環境に存在する聴力への様々な危険因子の影響や、年齢を重ねることによる聴覚系の細胞の老化(図)によって音の聞こえは低下します。遺伝性の聴覚障害を治すことは現時点では難しく、有効な治療法がありませんが、危険因子を知っていれば、難聴はある程度防ぐことができる病気です。今回は聞こえの低下の最も高いリスクとなる騒音と加齢について、聴覚系の組織や細胞の多くは再生できないこと、聴力を末永く守るためにも若い時から大音量で音楽を聴くことを避けるのが重要であることをマウスの実験例を示しながら解説しました。

藤岡先生からは、「iPS細胞を使った難聴のクスリ探し」と題してお話し頂きました。現在の難聴治療は補聴器の使用、人工内耳埋め込み術などが主流でありますが、藤岡先生は人工多能性幹細胞(iPS細胞)による再生医療およびiPS細胞を用いて難聴治療に有効なクスリを探す研究を行っています。今回のご講演では難聴患者の内耳で起こっている現象をiPS細胞で再現した最新技術や、この技術に基づき、免疫抑制剤が甲状腺腫を伴う遺伝性難聴のペンドレッド症候群の治療に有効であることが証明されたことをご紹介頂きました。

今回はオンラインでありながら参加者の皆さまから多数のご質問を頂き、充実したものとなりました。今後も難聴治療の最先端研究について紹介してまいります。

図:加齢に伴うマウスの内耳有毛細胞の聴毛の脱落。有毛細胞の聴毛は音を聞くために重要な役割を持っています。ヒトにおいても聴毛の脱落が加齢性・老人性難聴の一因となることが報告されています。

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