HOME広報活動刊行物 > July 2016 No.022

研究紹介

マウスモデルとゲノム編集技術を用いて優性難聴の発症メカニズムを解明

英国科学誌「Human Molecular Genetics( ヒューマン・モレキュラー・ジェネティクス)」に哺乳類遺伝プロジェクトの宮坂勇輝研修生らの研究成果が発表されました。

哺乳類遺伝プロジェクトリーダー吉川 欣亮


1.研究の背景

優性難聴は2本の染色体に存在する相同遺伝子の1つに生じた変異が原因で病態が発症する遺伝病です。しかし、多くの場合において1つの原因遺伝子の影響のみで難聴患者の病態を説明することは困難でした。そこで私たちはこの現象を解明するため、優性難聴モデルマウスを用いて遺伝学的実験を行いました。


2.研究成果の概要

私たちが以前発見したSans遺伝子の変異はヒトの新生児難聴の原因であり、そのモデルマウスはSans変異(680番目にグアニンが挿入)がホモの状態(2本の染色体上の遺伝子に変異が存在)で、音を聞く上で重要な内耳有毛細胞の感覚毛が崩壊し重度難聴を発症します。一方、この変異をヘテロの状態(一方の染色体の遺伝子にのみ変異が存在)で持つマウスも軽度ではありますが、感覚毛異常によって進行性難聴を発症します。私たちは今回、この進行性難聴がSans変異にカドヘリン23遺伝子(Cdh23)の変異が加わることで発症することを明らかにしました。図にはその結果を示していますが、Cdh23の変異した753番目のアデニン(A)塩基をゲノム編集技術によって正常型のグアニン(G)に修復することで、Sans変異を持っていても感覚毛異常が抑制されることが実証されました。

図

図. 二つの遺伝子の変異の数による内耳有毛細胞の感覚毛形態の違い。


3.発見の意義

本研究は難聴が2つの遺伝子変異の相互作用によって発症するという現象をマウスモデルの研究によって明らかにしたものです。マウスはヒトの難聴発症を再現するモデルであり、本研究の成果はヒト難聴の発症予測およびその治療に活用されることが期待できます。


参考文献

Miyasaka Y, Shitara H, Suzuki S, Yoshimoto S, Seki Y, Ohshiba Y, Okumura K, Taya C, Tokano H, Kitamura K, Takada T, Hibino H, Shiroishi T, Kominami R, Yonekawa H, Kikkawa Y. Heterozygous mutation of Ush1g/Sans in mice causes early-onset progressive hearing loss, which is recovered by reconstituting the strain-specific mutation in Cdh23. Hum Mol Genet. 2016 Mar 2. pii: ddw078.

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