HOME広報活動刊行物 > July 2017 No.026

研究紹介

子宮頸がんワクチン投与後の簡易な血中抗体価測定法の開発に成功
~パピローマウイルス16・18型に対する抗体価を採血後15分以内で判定可能~

米国科学誌「PLOS One(プロス ワン)」に芝崎太参事研究員らの研究成果が発表されました。

分子医療プロジェクト プロジェクトリーダー芝崎 太


1.研究の背景

日本において子宮頸がんは、子宮癌の約7割を占め、30代後半の年代をピークとし、年間約1万人の方が罹患し、約3,000人の患者さんが亡くなるがんです。子宮頸がん発症の主たる原因と考えられているヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸部に病理的な所見がない女性でも10~20%、海外では性行為を経験した女性の50~80%が少なくとも1度は感染すると報告されています。感染例の10%程度では自然に排出されず、数年から数十年に渡って持続感染し、子宮頸がんに進展すると報告されています。このため、HPVに対するワクチンを接種することによって発症を予防できる可能性が海外の研究から報告されました。

HPVには100種類以上の亜型が存在しますが、16型、18型による感染が60%を占め、この2つの亜型に対するワクチンとして、本邦では2009年、2011年にそれぞれサーバリックス(Cervarix:16型、18型の2価ワクチン)、ガーダシル(Gardasil:16,18,6,11型の4価ワクチン)が製造販売認可を受け、延べ330万人以上の日本人女性に接種されました。対象は14~16歳を中心に筋肉内に3回接種されています。製薬会社の研究では、約8年間は子宮頸がんの発症予防効果を有することが実証されました。なおかつ、20年間は高い抗体価が維持されると推定されています。

ところで,本ワクチン接種では、抗体価の上がり方に個体差があるのではないかと推定されており、接種者の抗体価を観察する事に加え、予防効果についても詳細な調査が今後必要と思われます。


2.開発の概要

この度、当研究所の芝崎太研究員らは、東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合(TOBIRA)との産学医連携体制を通し、イムノクロマト法を用い、血液一滴以下というごく微量の血液サンプルを用いて、採血後15分以内にHPV16型、18型に対する血中抗体価を測定できるキットを開発することに成功しました。

本キットは、従来の金コロイドを使用する方法とは異なり、測定原理として二次抗体による酵素反応を用いて血液中の抗体を検出するため、抗体価を高感度に測定することが可能になりました。さらに、血液サンプル量がごく微量でも測定可能ですので利便性にも長けています。

なお、本キット判定は、200名以上のワクチン接種者の協力を得て、三重大学、がん感染症センター都立駒込病院、女性と心のクリニックなどの医療機関で実施されました。判定は目視により8段階で実施され、従来のELISA法と相関することも示されました。さらに、16型と18型の亜型に対する抗体価も個別に測定することが可能であり、有効血中抗体価が持続しているかどうかの判定にも有用であると考えられています。


【本キットの概要図】

パピローマウイルス16・18型に対する血中抗体価測定

参考文献

Endo F, Tabata T, Sadato D, Kawamura M, Ando N, Oboki K, Ukaji M, Kobayashi K, Kobayashi Y, Ikeda T, Shibasaki F.
Development of a simple and quick immunochromatography method for detection of anti-HPV-16/-18 antibodies.
PLoS One. 2017 Feb 3;12(2):e0171314.
doi: 10.1371/journal.pone.0171314.

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