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Jan. 2018 No.028
英国科学誌 「Scientific Reports」 on-line版に細川雅人主席研究員らが 「グラニュリン遺伝子変異を伴う家族性前頭側頭葉変性症における神経変性疾患関連タンパクの重複蓄積」 について発表しました。
認知症プロジェクト 主席研究員細川 雅人
グラニュリン遺伝子変異をもつ前頭側頭葉変性症の患者脳には、従来蓄積しないとされていたタウやα-シヌクレイン (α-syn) が蓄積していることを明らかにしました。グラニュリン遺伝子変異脳に蓄積するタンパクの定義を見直す発見となりました。
認知症の一種である、TDP-43 (*1) 蓄積を伴う前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration: FTLD) (*2) の原因遺伝子として、グラニュリン (granulin: GRN) 遺伝子変異が2006年に同定されました。その際、GRN遺伝子変異を持つFTLD患者脳ではTDP-43の凝集体は観察されましたが、タウの蓄積がみられなかったことから、本疾患脳に蓄積する異常タンパクはTDP-43(+)/タウ(-) と定義されました。そのため、TDP-43以外の異常タンパク蓄積が起こっているかについてはほとんど調べられていませんでした。
英米のブレインバンクから供与されたヒトGRN変異FTLD患者脳を用いて高感度の免疫組織化学染色をおこなったところ、リン酸化タウ (図1)やリン酸化α-syn (図2) など、TDP-43以外の異常タンパク蓄積も同時に起こっていることがわかりました。生化学的解析でもリン酸化タウとリン酸化α-synの蓄積が確認されました。
GRN変異FTLDはTDP-43のみが脳内に蓄積するTDP-43プロテイノパチーと位置づけられていましたが、今回の発見により、TDP-43、タウ、α-synが重複蓄積するマルチプル・プロテイノパチーと定義し直したほうが良いと提唱しました。
C認知症の患者脳において細胞内に蓄積したタンパクは、リン酸化、断片化、ユビキチン化を受けている点や、凝集し線維を形成している点など共通の性質を有しており、異常タンパク質の蓄積過程において、何らかの共通メカニズムが存在する可能性があると推察されます。従って、すべての疾患に共通した治療法を開発できる可能性があると考えられます。異常タンパクの重複蓄積という観点から認知症の病態発症機構を見直す契機となり、根本治療法の開発の促進に結びつくことが期待されます。
(A) 神経細胞に蓄積するリン酸化タウ。(B) 神経突起内に蓄積する顆粒状のリン酸化タウ。(C) オリゴデンドロサイトに蓄積するリン酸化タウ。(D) アストロサイトに蓄積するリン酸化タウ。
(A, B) 側頭葉皮質に蓄積するリン酸化α-シヌクレイン
*1TDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43 kDa):
光の情報を脳に伝える伝達物質としてグルタミン酸が重要とされています。しかし、グルタミン酸濃度が過剰になると、神経細胞に障害をもたらしてしまいます。EAAC1とは、グルタミン酸の濃度を調節するグルタミン酸トランスポーターのひとつです。
*2前頭側頭葉変性症:
前頭葉及び側頭葉に限局した萎縮が認められる神経変性疾患で、認知症の一種。人格変化、行動障害、言語障害を主症状とする。
Hosokawa M, Kondo H, Serrano GE, Beach TG, Robinson AC, Mann DM, Akiyama H, Hasegawa M, Arai T.
Accumulation of multiple neurodegenerative disease-related proteins in familial frontotemporal lobar degeneration associated with granulin mutation.
Scientific Reports, 2017, 7(1):1513. doi: 10.1038/s41598-017-01587-6.