HOME刊行物 > Oct 2018 No.031

Topics

カルボニルストレスを伴う統合失調症を対象にしたピリドキサミン(ビタミンB6)の医師主導型治験

「Psychiatry Clin Neurosci」に病院等連携研究センター センター長 糸川昌成、統合失調症プロジェクト 主席研究員 宮下光弘らが 「カルボニルストレスを伴う統合失調症を対象にしたピリドキサミン(ビタミンB6)の医師主導型治験」 について発表しました。

統合失調症プロジェクト 主席研究員宮下 光弘


1.研究の背景

糖はわたしたちの体のなかでさまざまな物質に変化します。その一つが終末糖化産物(Advanced Glycation Endproducts:AGEs)とよばれる悪玉物質で、これまでに、糖尿病、腎臓病、血管や心臓の病気に関係していることが知られています。一方で、AGEsが作られないように働く善玉物質もあります。例えば、3種類あるビタミンB6のひとつであるピリドキサミンという物質です。私たちは、統合失調症の患者さんの約2割で、代表的なAGEsであるペントシジンが増え、善玉物質のビタミンB6が減ってしまうことを発見しました。そこで私たちは、東京都立松沢病院に入院していて、悪玉物質のペントシジンが増えている統合失調症の患者さん10名の方々に、善玉物質であるピリドキサミンを内服してもらい、ペントシジンを低下させることで症状の改善を目指す治験を行いました(図参照)。

統合失調症に対するピリドキサミンの治療効果仮説

2.研究成果の概要

治験を開始する前に内服しているお薬は変更せずに、ピリドキサミンを追加して内服するという方法で行いました。ピリドキサミンの1日平均摂取量は成人で約1mgですが、今回の治験では1000mg以上という大量のピリドキサミンを内服していただきました。その結果、10名中2名の患者さんで症状が劇的に改善しました。遺伝的にAGEsが体の中で貯まりやすい体質の患者さんは、ピリドキサミンによってペントシジンが25%も減少し、同時に症状が改善しました。また、これまでのお薬によって生じていた体のこわばり、歩きづらさといった副作用が4名の患者さんで改善しましたが、ウェルニッケ様脳症という副作用が新たに生じました。


3.治験の意義

ピリドキサミンを含むビタミンB6は美容や健康の話題が多く、私たちの生活ではなじみ深い存在です。統合失調症は様々な原因からなる症候群ですが、ビタミンB6は一部の患者さんによく効くことが、私たちの治験で分かりました。また、全ての統合失調症のお薬は、ドパミンD2受容体に作用して効果を発揮します。そのため、体がこわばる、歩きづらくなる、手が震えるなどの副作用が生じます。その他にも、糖尿病になりやすかったり、心臓に影響があったりすることもあります。ピリドキサミンは、従来のお薬とは違ってこのような副作用はありません。ウェルニッケ様脳症という副作用が生じましたが、ビタミンB1の内服で防げる可能性が高く、これまでのお薬で生じる副作用がほとんど無い、新しい統合失調症のお薬が誕生する期待が高まっています。


参考文献

Pyridoxamine: A novel treatment for schizophrenia with enhanced carbonyl stress.
M Itokawa, M Miyashita, M Arai, T Dan, K Takahashi, T Tokunaga, K Ishimoto, K Toriumi, T Ichikawa, Y Horiuchi, A Kobori, S Usami, T Yoshikawa, N Amano, S Washizuka, Y Okazaki, T Miyata.
Psychiatry Clin Neurosci. 72(1):35-44. doi: 10.1111/pcn.12613. 

ページの先頭へ