Jan. 2023 No.048
幹細胞プロジェクト 主席研究員種子島 幸祐
私たちはケモカインの一種CXCL14が細菌のDNAに多く含まれる非メチル化CpG配列を持つDNAに結合して、細菌DNAを感知するセンサー分子 Toll-like receptor 9 (TLR9)を介した自然免疫を活性化するユニークな分子メカニズムについて研究を行ってきました。皮膚は環境から個体を守る最外層の構造ですが、最大の免疫器官とも言われており、体外の異物から身を守る最前線として働いています。CXCL14は皮膚にも恒常的に発現していることが分かっていましたが、皮膚の免疫機能での役割については不明でした。本研究では、皮膚においてCXCL14の発現が一日の中でリズミカルに変動しており、夜行性のマウスでは昼、昼行性のマーモセットでは夜に発現が高くなることがわかりました。抗菌免疫との関連を探るため、黄色ブドウ球菌のマウス皮膚への感染実験を行ったところ、CXCL14の発現の高い昼は黄色ブドウ球菌の増殖が抑えられていたのに対して、夜は過増殖しました。CXCL14あるいはTLR9を無くしたノックアウトマウスでは昼でも黄色ブドウ球菌の過増殖が起こったことから、この昼夜による抗菌免疫の差はCXCL14の発現上昇により、TLR9経路が活性化することによるものである可能性が示唆されました。CXCL14と黄色ブドウ球菌から抽出したDNAを混ぜて、TLR9を持つ樹状細胞やマクロファージを刺激する実験ではCXCL14とDNAを共処理した細胞で、抗菌免疫に関与するIL1やCXCL2といったサイトカインが上昇してきました。これらの結果から、CXCL14が黄色ブドウ球菌のDNAに結合し、TLR9の活性化を介して抗菌免疫遺伝子を誘導することにより免疫反応のリズムを作り出していることがわかりました。黄色ブドウ球菌の過増殖は肌荒れなどの原因となることが知られています。夜ふかしなどで生体リズムが乱れると、肌荒れなどが起こりやすいと感じる方は多いと思いますが、本研究で解明された免疫リズムの分子メカニズムが関連しているかもしれません。また、黄色ブドウ球菌の感染は院内感染などの原因となりますが、CXCL14の発現を制御することで、感染防御の初期段階での抗菌作用を高めることができる可能性があります。