2026年7月10日
社会健康医学研究センターの西田淳志センター長らの研究グループは、「統合失調症スペクトラムに関連する淡蒼球亜領域の特徴を発見―統合失調症や発症リスクに共通する淡蒼球外節体積増大を確認―」について Molecular Psychiatryに発表しました。

東京大学大学院医学系研究科精神医学分野/医学部附属病院精神神経科の岡田直大准教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)准教授)、笠井清登教授(WPI-IRCN主任研究者)、当研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長らの研究グループは、統合失調症(注1)患者と健常者、および東京ティーンコホート調査(注2)に参加した思春期児を対象に、磁気共鳴画像法(MRI、注3)による脳撮像を実施し、淡蒼球(注4)の亜領域(外節・内節)の特徴を調べました。その結果統合失調症において、外節優位の体積増大と(図1)、亜領域特有の機能的接続(注5)を認めました。また思春期児において、精神病体験(注6)が多いほど外節体積が大きく(図2)、精神病体験の有無による亜領域特有の機能的接続の差を認めました。
これまでの基礎研究から淡蒼球の内節と外節は異なる機能・脳回路と関連することが知られており、また統合失調症を有する患者さんや精神病体験を有する思春期児における淡蒼球体積の特徴は報告されていましたが、本研究は、統合失調症スペクトラムにおける淡蒼球亜領域の特徴を系統的に明らかにした点に新規性があります。
本研究の成果は、統合失調症の病態理解を深めるだけでなく、将来的な早期リスク評価や発症メカニズムの解明、新たな治療標的の探索につながる基礎研究の発展に寄与することが期待されます。
なお、本研究は、2026年7月10日(金)(英国夏時間)に、英国科学誌「Molecular Psychiatry」オンライン版に掲載されました。
これまでの基礎研究から淡蒼球の内節と外節は異なる機能・脳回路と関連することが知られていました。またこれまでのMRIを用いた先行研究では、統合失調症を有する患者さんにおいて、淡蒼球の体積増大や機能的接続の異常が報告されていました。また、統合失調症の将来的な発症のリスク因子と考えられている精神病体験を有する思春期児においても、淡蒼球の体積増大を示唆する報告がありました。しかしこれらの現象に対して、淡蒼球を構成する2つの主要な亜領域である外節と内節が、それぞれどのような役割を果たしているのかは十分に解明されていませんでした。その背景には、これらの亜領域を高精度に分割して解析する技術が限られており、体積の測定が難しかったという課題がありました。
本研究では、統合失調症を有する患者さんと健常者あわせて100名超、さらに一般集団から抽出した思春期児を対象としたコホート研究である東京ティーンコホート調査に参加した約3,000名のうち200名超を対象に、構造MRI(注7)および安静時機能的MRI(安静時fMRI、注8)を撮像しました。これらのデータを用いて淡蒼球の外節・内節それぞれの体積および機能的接続を解析しました。特に体積の算出については、深層学習を活用した最新の脳画像解析技術を用い、淡蒼球外節と内節を高精度に分割し(図3)、個別に解析する手法を導入しました。統合失調症患者群と、精神病体験を有する思春期児群を同時に調べることで、統合失調症スペクトラムに関連する共通の脳特徴を検討しました。
その結果、統合失調症を有する患者さんでは健常者と比べて、外節の体積が内節よりも有意に増大していることが明らかになりました。また統合失調症では、左外節と視覚空間処理に関わる外側後頭頭頂野(注9)との機能的接続が強いことが明らかとなりました。さらに外節と内節はそれぞれ異なる脳領域との機能的接続異常を示し、両者が異なる神経回路に関与している可能性が示されました。さらに、思春期児を対象とした解析では、精神病体験が多く認められるほど左外節の体積が大きいことがわかりました。また、精神病体験を有する児では左外節と、視覚空間処理に関わる舌状回(注10)という脳領域との機能的接続が強くなっていました。これらの結果は、統合失調症で認められた特徴と一部共通しており、淡蒼球外節の変化が発症後だけでなく、発症前段階とも関連する可能性が示唆されました。
本研究は、統合失調症およびその発症リスクと関連する可能性が報告されている精神病体験に関連する、淡蒼球外節と内節の構造的・機能的特徴を系統的に明らかにした点に新規性があります。これらの成果は、統合失調症の病態理解を深めるだけでなく、将来的な早期リスク評価や発症メカニズムの解明、新たな治療標的の探索につながる基礎研究の発展に寄与することが期待されます。
なお、本研究は東京大学大学院医学系研究科・医学部、東京都医学総合研究所、総合研究大学院大学の各施設の倫理委員会の承認のもと実施されました。
本研究は、文部科学省科研費「統合失調症スペクトラムにおける淡蒼球亜領域の構造・機能異常の解明」等(課題番号:18K15478、22H04926、22K18419、25K10853、16H06398、20H01777、20H03951、21H05173、21K10487、23H05472、24H00666、16H06395、16H06399、16K21720、16H06280、17H04244、21H05171、21H05174)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業「複雑臓器制御系の数理的包括理解と超早期精密医療への挑戦」(課題番号:JPMJMS2021)、JST社会技術研究開発事業(RISTEX)「若者と共に創る孤独予防戦略:コプロダクションによる若者の孤独の理解と予防法の創出」(課題番号:JPMJRS24K1)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)脳とこころの研究推進プログラム「国際MRI研究連携によるAYA世代脳発達および障害のメカニズム解明」「人生ステージに沿った健常および精神・神経疾患の統合MRIデータベースの構築にもとづく国際脳科学連携」「双方向トランスレーショナルアプローチによる精神疾患の脳予測性障害機序に関する研究開発」、AMED脳神経科学統合プログラム「脳データ統合プラットフォームの開発と活用による脳機能と疾患病態の解明」の支援により実施されました。
)で詳細をご覧いただけます。