2026年6月8日
認知症研究プロジェクトの鈴掛雅美 主席研究員らは、「細胞内ヘム合成の促進により、パーキンソン病関連タンパク質の脳内伝播を抑制」についてActa Neuropathologica Communicationsに発表しました。
当研究所 認知症研究プロジェクトの鈴掛雅美主席研究員、長谷川成人副所長・臨床医科学研究分野長、野中隆プロジェクトリーダーらの研究グループは、5-アミノレブリン酸(5-ALA)の経口投与により細胞内のヘム生合成を促進することで、パーキンソン病やレビー小体型認知症の発症・進行に関わるαシヌクレインの脳内伝播を抑制できることを、モデルマウスの解析から明らかにしました。
本研究成果は、パーキンソン病、レビー小体型認知症の進行過程を標的とする新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。

パーキンソン病やレビー小体型認知症では、神経細胞内にαシヌクレインというタンパク質が異常に蓄積します。このようなαシヌクレイン蓄積病理の脳内分布は、疾患の進行に伴って広がることが報告されており、この現象は「脳内伝播」と呼ばれています。αシヌクレインの脳内伝播は疾患の進行に深く関与すると考えられていることから、その伝播を抑制することができれば、疾患の進行を抑える新たな治療法につながる可能性があります。
研究グループはこれまでに、ポルフィリン化合物が試験管内でαシヌクレインの凝集を抑制することを報告してきました。しかし、ポルフィリン化合物は分子量が大きく、脳に届きにくいという課題がありました(図1)。
そこで本研究では、体内でポルフィリン・ヘム生合成の出発物質となる5-アミノレブリン酸(5-ALA、図1)を投与し、細胞内のポルフィリン・ヘム生合成を促進することで、αシヌクレインの蓄積や脳内伝播を抑制できるかを検討しました。
本研究では、αシヌクレインの凝集・蓄積・伝播に対する5-ALAの効果を、試験管内モデル、培養細胞モデル、動物モデルを用いて評価しました。
その結果、試験管内のαシヌクレイン凝集モデルでは、5-ALA自体にαシヌクレイン凝集を抑制する効果は認められませんでした(図2)。一方、培養神経細胞を用いた実験では、5-ALAの添加によって細胞内のヘム量が増加し、αシヌクレインの蓄積が抑制されました(図3)。
さらに、αシヌクレイン脳内伝播モデルマウスに5-ALAを1日1回、4週間経口投与したところ、脳内におけるαシヌクレイン病理の伝播が抑制されることが明らかになりました(図4)。
これらの結果から、5-ALAはαシヌクレインに直接作用して凝集を抑制するのではなく、細胞内のヘム生合成を促進することにより、αシヌクレインの異常蓄積および脳内伝播を抑制する可能性が示されました。
現在、パーキンソン病やレビー小体型認知症に対する治療は、主に症状を和らげることを目的とした対症療法であり、病気そのものの進行を抑える治療法は確立されていません。
本研究は、細胞内のヘム生合成経路を活性化することで、αシヌクレイン病理の拡大を抑制できる可能性を示したものです。今後、作用メカニズム、安全性、長期的な効果をさらに検証することで、パーキンソン病やレビー小体型認知症の進行過程を標的とした、新たな疾患修飾治療の開発につながることが期待されます。