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研究紹介

C型肝炎ウィルスのヒト脂質代謝を利用した増殖メカニズムを解明

感染制御プロジェクト 研究員平田 雄一

C型肝炎ウイルス(HCV)は、本邦では約200万人が感染しているとされており、30%程度の患者が肝硬変に至り、年間5~7%で肝細胞癌が発生するとされています。近年、治療効果は向上したものの、10種以上のHCV遺伝子型の患者では治癒できないケースがあります。一方で、ペグインターフェロン、リバビリンを使用した現在の治療は血球減少などの副作用を伴い、治療の完遂が難しいことがあります。このため、より副作用の少ない効果的な薬剤が求められています。

我々は、HCVがその生活環で利用する宿主因子に着目し、これらを標的とした抗HCV薬のスクリーニングを行ってきました。これまでに、細胞の脂質成分の1つであるスフィンゴミエリン(SM)を合成する最上流酵素であるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ阻害薬(SPT阻害剤)がHCV複製を抑制することを明らかにしました。また、その作用メカニズムはHCV複製の場(複製複合体)を構成するSMが、SPT阻害剤により減少するためであることを明らかにしました。しかし、細胞や組織内のSMを同定・定量することが技術的に難しいため、HCVが肝細胞に感染することでSMがどのように変化しているのかは明らかでありませんでした。 さらには、SMには側鎖の脂肪酸の種類に応じて複数の分子種が存在しますが、どのSM分子種とHCV複製が関係しているのかは明らかでありませんでした。

本研究では、液体クロマトグラフ質量分析計を使用することで、SMを同定・定量することを可能にしました。その結果、HCV感染により、肝細胞の、特に複製複合体分画でのSM量が増加していました。また、SM合成酵素(SGMS)1及び2の発現が増加し、この酵素のうちSGMS1がHCV複製に重要であることを見出しました。さらに、肝細胞に4種のSM分子種が存在することを同定し、このうち特定の2種がHCV複製に寄与していることが示されました。

以上の結果から、HCVは肝細胞に感染することによりSGMS1/2発現を上昇させ、複製複合体でのSM量を上昇させ、2つのSM分子種が複製に寄与していると考えられました。

ウイルスを制御するには、ウイルスがどのようにヒトの体で増殖するのかを明らかにすることが重要です。今回、HCVが肝細胞のスフィンゴ脂質代謝を調整し、HCV複製に利用していることを明らかにしました。これらの発見は、新たな治療薬の開発につながることが期待されます。

Katsume A, Tokunaga Y, Hirata Y, Munakata T, Saito M, Hayashi H, Okamoto K, Ohmori Y, Kusanagi I, Fujiwara S, Tsukuda T, Aoki Y, Klumpp K, Tsukiyama-Kohara K, El-Gohary A, Sudoh M, Kohara M.; Serine Palmitoyltransferase Inhibitor Inhibits Hepatitis C Virus Replication in Human Hepatocytes. Gastroenterology (In press)
Hirata Y, Ikeda K, Sudoh M, Tokunaga Y, Suzuki A, Weng L, Ohta M, Tobita Y, Okano K, Ozeki K, Kawasaki K, Tsukuda T, Katsume A, Aoki Y, Umehara T, Sekiguchi S, Toyoda T, Shimotohno K, Soga T, Nishijima M, Taguchi R, Kohara M.; Self-enhancement of Hepatitis Cvirus replication by promotion of specific sphingolipid biosynthesis.
PLoS Pathog. Aug 2012; 8(8): e1002860.

図

本研究成果の概要
C型肝炎ウイルスが感染したヒト肝細胞のスフィンゴ脂質代謝を自己に有利に利用し増殖している模式図を示します。

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