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研究紹介

シナプスの前部と後部の形成を同調させる新たなメカニズムを解明

神経回路形成プロジェクト 主席研究員神村 圭亮

ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、コアタンパク質にヘパラン硫酸鎖が共有結合した分子であり、細胞膜表面や細胞外マトリックスの主要成分として生体内に広く分布することが知られています。一方、近年BMP、Wnt、FGF等のヘパリン/ヘパラン硫酸結合性の分泌性分子がハエやマウスのシナプス形成に深く関与することが報告されています。しかしながら、これらの分泌性分子が機能する上でHSPGがどの様な役割を有するのか不明でした。

今回私たちは、ショウジョウバエの神経筋接合部の形成において分泌型HSPGの一つであるパールカンがWntホモログであるWingless (Wg)のシグナルを調節することを見出しました。Wgはシナプス前終末から分泌され、シナプス前部と後部の両方に局在する受容体DFz2に結合することで、それぞれシナプス前部と後部の形成を促進することが知られています。解析した結果、パールカン欠失変異を持つハエのシナプス前細胞ではWgシグナルが亢進しシナプス前終末が過剰に形成される一方、シナプス後細胞では反対にWgシグナルが低下しシナプス後部の形成不全を引き起こすことが分かりました。この結果は、パールカン欠失変異を体のシナプスではWgシグナルのバランスに異常をきたしていることを示します。この結果と一致して、変異体では、Wgタンパク質がシナプス後部にまで拡散せずシナプス前膜に留まっていることが分かりました(図)。以上のことから、パールカンはWgタンパク質の分布を調節することで、シナプス前・後細胞におけるWgシグナルのバランスを調節することが強く示唆されました。

一方、HSPGはWg/Wnt以外にも神経・筋疾患や癌などに関与する様々な分子と相互作用することが知られており、HSPGの機能解析は疾患の病態解明のために非常に重要です。したがって今後、HSPGの詳細な解析を続けることで、これらの疾患の病因・病態の解明が期待されます。

この研究成果は、学習記憶プロジェクトの齊藤実参事研究員及び上野耕平主席研究員との共同研究として、米国科学雑誌「The Journal of Cell Biology」に掲載されました。

Keisuke Kamimura, Kohei Ueno, Jun Nakagawa, Rie Hamada, Minoru Saitoe, and Nobuaki Maeda
Perlecan regulates bidirectional Wnt signaling at the Drosophila neuromuscular junction J Cell Biol. 200,219-233(2013), doi: 10.1083/jcb.201207036

図

パールカンは、Wgをシナプス前部と後部に正しく分配することで、シナプス前部と後部の同調した発達を調節する。

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