HOME広報活動刊行物 > July 2013 No.010

研究紹介

認知症の原因タンパク質は正常タンパク質を異常型に変換して脳内に広がることを実証

認知症・高次脳機能研究分野 研究員鈴掛 雅美

アルツハイマー病やレビー小体型認知症(*1)、パーキンソン病などの神経変性疾患では脳の細胞が徐々に変性・死滅することにより認知機能の低下や運動障害などの症状をきたします。このような症状は時間経過に伴い徐々に進行するという特徴があり、治療を考える上でこの「進行性」の機序を明らかにする事は大変重要です。しかしながら、この「進行性」に関してはこれまで十分な議論がなされてきませんでした。私たちは、細胞内に生じた異常タンパク質が正常タンパク質を異常型に変換しながら細胞内を伝わって広がる事で病気が進行するという新しい考え方を提唱し、その検証を行ってきました。今回、レビー小体型認知症やパーキンソン病の原因タンパク質であるαシヌクレインに着目し、異常型のαシヌクレインをマウスの脳内に注入するとマウス脳内の正常αシヌクレインが異常型に変換され、その病変が広がる事を実証しました。

具体的には、精製したαシヌクレインを試験管内で異常構造にし、マウスの脳内に注入しました(図1)。

図1

その結果、注入後わずか3ヶ月でマウス脳内には患者脳内の変化と良く似た異常αシヌクレイン蓄積が認められ、それは時間経過に伴い脳全体に広がりました(図2)。

図2

さらに、この病変にはマウス脳内の正常なαシヌクレインが異常な構造に変換されて蓄積していました。この結果から、微量の異常型αシヌクレインが細胞内に存在するだけで、正常なαシヌクレインを異常型に変換し、それが急速に増幅されている事がわかりました。異常αシヌクレインが増幅されて脳内に広がる事でレビー小体型認知症やパーキンソン病が進行すると考えられます(図3)。

図3

本研究で確立したマウスモデルはレビー小体型認知症やパーキンソン病の新規治療法開発への応用が期待されます。

(*1)レビー小体型認知症:アルツハイマー病に次いで患者数の多い認知症であり、高齢者の認知症の約20%を占めるといわれている。

Masami Masuda-Suzukake,Takashi Nonaka, Masato Hosokawa,Takayuki Oikawa,Tetsuaki Arai, Haruhiko Akiyama, David M. A. Mann and Masato Hasegawa.
Prion-like spreading of pathological α-synuclein in brain.
Brain 136, 1128-1138(2013).doi: 10.1093/brain/awt037

ページの先頭へ