HOME広報活動刊行物 > October 2013 No.011

研究紹介

グルタミン酸毒性による網膜神経細胞死の抑制に成功

英国科学雑誌「Cell Death and Differentiation」に視覚病態プロジェクトの原田高幸副参事研究員、行方和彦主席研究員らの研究成果が発表されました。

視覚病態プロジェクト 主席研究員行方 和彦

脳に存在する神経細胞は主に記憶や学習に関して重要な役割を持っています。 一方、眼における神経細胞は視覚情報の獲得に重要な役割を担っています。 ヒトは外部環境からの情報の80%以上を視覚情報に頼っており、視機能の低下はQuality of Lifeの点からも深刻な事態を引き起こします。 視機能低下を引き起こす眼疾患として緑内障がよく知られていますが、日本では40歳以上の約5%が緑内障にかかっていると考えられています。 緑内障は網膜神経節細胞と呼ばれる神経細胞が消失することにより、悪化すれば失明にいたる病気です。 我々はDock3と呼ばれるタンパク質を用いて、緑内障モデル動物の治療実験に成功しました。

神経細胞間の情報伝達はグルタミン酸と呼ばれるアミノ酸によって仲介されています。 グルタミン酸は正常な神経伝達機能には必須な物質ですが、過剰量のグルタミン酸が存在するとその周りの神経細胞では細胞死が誘導されてしまいます。 通常、野生型マウスの眼球へ過剰量のグルタミン酸を投与すると網膜神経節細胞が死滅して減少します。 ところが、Dock3を強く発現する遺伝子改変マウス(Dock3 Tg)ではグルタミン酸を投与しても神経細胞死があまり起きないことが判明しました。 さらに緑内障モデルマウスではヒト緑内障と同様に網膜神経節細胞の消失が認められますが、緑内障モデルマウスとDock3 Tgマウスの交配によって作製した、Dock3を強く発現する緑内障モデルマウスでは神経細胞死の抑制が確認できました(図1)。 Dock3はグルタミン酸を受け取る受容体に結合して細胞内部へ引き込み、受容体の数を減少させることによって神経細胞死を抑制することも明らかになりました(図2)。 将来的に遺伝子治療等によって網膜神経節細胞にDock3を強く発現する手法が確立すれば、緑内障などの治療法開発に応用できるかもしれません。

図1

図1

図2

図2

K Namekata, A Kimura, K Kawamura, X Guo, C Harada, K Tanaka and T Harada Dock3 attenuates neural cell death due to NMDA neurotoxicity and oxidative stress in a mouse model of normal tension glaucoma Cell Death & Differentiation 20, 1250-1256 (September 2013) | doi:10.1038/cdd.2013.91

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