HOME広報活動刊行物 > October 2013 No.011

開催報告

平成25年度 都医学研夏のセミナー

当研究所では、毎年夏期に保健師や医師、研究者、学生等を対象に5日間程度のセミナーを行っています。今年は5つの講座を開催いたしました。

難病の地域ケア看護コース(通算第39回)
難病対策の改革 今求められる難病保健活動の専門性

難病ケア看護研究室(神経変性病理プロジェクト)小倉 朗子・中山 優季・原口 道子

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40年以上の歴史をもつ我が国の難病対策が変わろうとしている今。行政職である全国の保健所保健師47名の方々と、充実した1週間のプログラムを今年も無事終えることができました。今年は、開催前日の午後およびセミナー3日めに下記の公開シンポジウムを開催し、それぞれ計98名、104名の方がご参加くださいました。

・「難病対策 各都道府県 難病行政と保健師の役割」
・「在宅人工呼吸器使用難病患者の災害対策―各地のとりくみに学ぶー」

世の中は、「老いても、病気になっても、住み慣れた地域でよりよく暮らし続ける」ことを目標に「地域包括ケアシステム」をかかげ、様々なサービスの主体を市町村として、現在の制度が創られています。しかしALSなどの難病療養においては、専門的な技術支援および医療を主体とする地域ケアシステムが必要であり、保健所保健師・保健行政の役割が大変大きくなります。この大きな役割を担う難病保健活動に、当研究室の研究活動が寄与できるよう、研究員、難病医療専門員(都委託事業)、研究支援者からなる“チーム難病ケア”は、一丸となって日々の活動に取り組んでいます。

ALS療養者でいらっしゃる佐々木様をはじめとする多くの外部講師の先生方 大変お世話になりました。そして受講生の皆様。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


臨床教育コース「神経病理ハンズオン」

実施代表者 脳病理標本リサーチセンター新井 信隆

今年も夏恒例の神経病理ハンズオンを7月29日から4日間のカリキュラムで行いました。平成23年に医学研が発足してから3回目、前身の神経科学総合研究所の時代から数えると39回目になります。今年の受講者は神経内科5名、法医学3名、病理学1名、精神科1名、製薬会社の研究員1名、医学部生1名でした。このコースは脳神経系のほぼすべての疾患カテゴリーの病理標本を実際に手に取って観察するハンズオン(Hands-on)形式の実習であり、4日間で多数例を経験できる短期集中型のカリキュラムを提供しています。

また今回初めて、実習室のコンピュータから脳神経病理データベースのサーバにアクセスして、受講者が実際に顕微鏡観察する標本のバーチャルスライド画像をマルチモニターに映しながら、観察する部位や見え方などの解説を行いました。実際のガラス標本の観察とデジタルデータの供覧を組み合わせることにより、より一層理解しやすい講習の仕組みを運用していゆく予定にしています。

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基礎· 技術コース
テーマ1「ショウジョウバエを用いた学習記憶の研究」

実施代表者 運動・感覚システム研究分野 参事研究員齊藤 実

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今年も「ショウジョウバエを用いた学習記憶の研究」をテーマに7月22日から26日にかけて夏のセミナーを開催しました。記憶情報の獲得から長期記憶へと安定化に至る各過程がどのように遺伝学的に分類されてきたか、どこまで記憶の分子機構が明らかにされてきたかについて、またイメージング解析法について講義を行った後、実際に学習記憶解析装置を使っての行動解析と、共焦点顕微鏡を使ってのイメージング解析の実習を行いました。今回は今までどおりの野生型を用いての実習に加えて、新たに学習変異体も用いての実習を行ないました。

実際に記憶関連遺伝子が記憶過程でどのような役割を担っているかを行動レベル、回路レベルでみようというものです。イメージング解析でも従来のCa2+動態に加えて、cAMPやMAPKの活性動態をみてみるという新たな試みもありました。我々自身でも思いもかけない結果が得られるなど充実した内容でした。こうした活動から学習記憶の研究を志向する研究者が増えてくれればと思います。


基礎· 技術コース
テーマ2「睡眠研究における実験解析技術の習得」

実施代表者 睡眠研究プロジェクト 副参事研究員児玉 亨

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7月29日から8月1日まで睡眠研究に関する基礎技術を習得するためのセミナーを開催しました。脳波測定・解析という生理学的手法は睡眠研究を進める上で基本となるのですが、実は遺伝子改変動物の表現型を調べるなど、他の分野でも重要な意義を持っています。しかし、近年の研究手法の変化により体系的研修を受ける機会が少なくなってきているのも事実です。そこで日本睡眠学会からの後援も受け、睡眠科学を目指す学生・若手研究者にとどまらず多くの方々に睡眠覚醒判定の標準となる手法を見てもらう機会を設けようとセミナー開催を計画しました。

今回の睡眠技術に関するセミナーは神経研時代以来の開催で、一からの準備となりました。そのため十分な周知を行えなかったのですが5名の参加者があり、開催責任者としてはほっと胸を撫で下ろしています。4日間という短い期間のため、かなりタイトなスケジュールでしたが、外部からの支援も有り、参加者の方々には睡眠研究の基礎に関していくつかの重要なポイントをお伝え出来たという感触を得ています。来年以降も同様のセミナーを開催するかどうかは未定ですが、これから基礎研究を考えている研究者の要望に添った形で続けていきたいと考えています。


基礎· 技術コース
テーマ3「神経系への遺伝子導入」

実施代表者 神経細胞分化プロジェクト 副参事研究員岡戸 晴生

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7月29日から5日間、神経細胞への遺伝子導入法に関するセミナーをおこないました。今回の受講生は製薬会社の創薬分野の研究者2名で、こちらは私と三輪昭子技術研究員、平井-坂本志伸研究員とで対応しました。

内容は神経細胞への遺伝子導入法の実習です。様々なウイルスベクター(アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス)を用いてマウスの脳から作製した初代培養ニューロンに蛍光蛋白遺伝子を導入して、その導入のされ方をウイルスベクターごとに比較しました。外来遺伝子を細胞に導入する技術は、特定の遺伝子を増加させたり減少させたりすることができるので、遺伝子の働きを明らかにするのに有用です。また、蛍光蛋白を発現させれば、細胞の動態を観察できます。創薬研究でも役立ちそう、とのことです。子宮内電気穿孔法の実習もしました。これは、胎児の大脳皮質の神経前駆細胞に外来遺伝子を導入する手技で、神経発生の分野でとても活躍しています。これはなじみのない手法らしく、教えがいがありました。受講生には熱心に取り組んでいただきました。このセミナーが創薬研究に役立つことを願っています。

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