HOME広報活動刊行物 > October 2013 No.011

開催報告

東京都医学総合研究所は都民の皆様向けに年8回ほど講演会を行っており、当研究所の研究成果の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしていきます。今号では今年度の第2回、第3回の開催報告をいたします。今後の予定は当研究所ホームページの催し物のコーナーをご覧ください。

第2回都民講座「統合失調症研究の最新情報‐臨床家がなぜ研究をするのか‐」

東京都医学総合研究所 参事研究員糸川 昌成


写真1 統合失調症は100人に一人がかかる病気といわれ、糖尿病や高血圧など頻度の高い病気と並んでコモン・ディジーズ(稀ならぬ病)と呼ばれます。 多くのコモン・ディジーズは原因が解明され、治療法も確立されています。 たとえば、肥満や運動不足が続くとすい臓から分泌されるインシュリンというホルモンの働きが悪くなって、血液中の糖が増えすぎるため2型糖尿病になるということが分かっています。 適度な運動と食べすぎをひかえる生活指導と、インシュリンの働きを助ける薬を使って治療が行われます。

さて、統合失調症。 おそらく、脳の病気でしょう、ドーパミンという脳の化学物質が働きすぎているらしい、といった証拠が、ここ40年ほどの間に蓄積してきています。 ただ、どの研究も仮説の段階にとどまっていて、糖尿病とインシュリンの関連ほどはっきりとした因果関係はつかめていません。

講演では、ひょっとすると統合失調症はドーパミンとは別のものが関わっているかもしれない、脳だけの病気とは言い切れないかもしれない、といったお話しをいたしました。 私たちが、2010年に論文発表したばかりの新しい仮説です。

科学の発見が本当に正しい真実として、世界的に確認がとれるまでには10年かかります。 では、まだ科学界から10年かかる検証を経たお墨付きをいただく前の―10年後には否定されているかもしれない―最新の発見をどうしてご紹介したのか。 それは、当日お越しいただいた多くの当事者とその御家族の方々に、教科書に載っている10年前の話ではなく―たとえ10年後の教科書では載せてもらえなくなるかもしれない―最先端の情報をお届けしたかったからです。

精神医学は不確実さをはらんだ分野です。 そのため、精神科医療も不完全な部分がたくさん残されています。 当事者と御家族は、科学や医療、社会とのかかわりにおいて様々な不利益を体験され、たいへんな御苦労を強いられています。 そうした御苦労が一刻も早く解消される未来を信じて、統合失調症の解明に挑む科学者と臨床家のいきごみを知っていただきたいと思い、最新のお話しをさせていただきました。

(統合失調症・うつ病プロジェクトリーダー 糸川 昌成)

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