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Jul. 2015 No.018
米国生理学会誌「Journal of Neurophysiology」に前頭葉機能プロジェクトの中山義久主席研究員・横山修主任研究員・星英 司副参事研究員らの研究成果が発表されました。
前頭葉機能プロジェクト 主席研究員中山 義久
ヒトやサルなどの霊長類の前頭葉には運動野と呼ばれる領域があり、動作を実行する過程において中心的な役割を担っています。運動野は、少なくとも7種類もの領域に分けられます。それではなぜ、そんなにもたくさんの運動野があるのでしょうか?
我々の行動には、手を伸ばす、足を動かすといった単純な動作だけでなく、飛んでくるボールをラケットで打ち返す、赤信号を見て車を停める、ピアノの鍵盤を適切な順序やタイミングで叩いていく、といった複雑な動作があります。そのような多種多様で複雑な行動を可能にするために、進化の過程でたくさんの運動野が獲得されてきたと考えられます。
この進化という観点から考えると、前頭葉には3つの傾向(グラデーション)があります(図1)。それらは、帯状皮質(帯状皮質グラデーション)、島皮質(島皮質グラデーション)、そして一次運動野(M1グラデーション)です。このうち、帯状皮質グラデーションと島皮質グラデーションは進化的に古く、M1グラデーションは新しいと考えられています。
今回の私たちの研究では、左右の手の使い分けという行動に着目し、帯状皮質グラデーションに属する帯状皮質運動野尾側部 (CMAc) 及び補足運動野 (SMA) の機能構築を調べました。サルは、画面上の指示に従って、右手又は左手でボタンを押す行動課題を学習しました(図2)。画面の左側に四角が現れたら左手、右側に現れたら右手でボタンを押すと正解となり、サルはジュースをもらえます。
この行動課題をしている最中に、左脳のCMAcとSMAから多数の神経細胞の活動を記録しました。その結果、1) 対側の手(右手)の動き、2) 同側の手(左手)の動き、3)両側の手(右手と左手)の動きを反映する細胞がCMAcとSMAの両方から見つかりました。
さらに、これら3種類の細胞の空間的な分布を調べたところ、SMAは同じ選択性を持つ細胞が0.4ミリメートル程度の広がりを持つグループを形成し「組織化」が進んでいるのに対し、CMAcは異なる選択性を持つ細胞が混在しており、「未分化」であることが分かりました(図3)。
大脳皮質の構造は進化に伴い、細胞構築が組織化されることが知られています。進化的に古い皮質は層構造が不明瞭ですが、新しい皮質は明瞭に分かれてきます。
進化的により古い皮質であるCMAc から新しい皮質であるSMAへ至る過程で、同じ特性を持つ細胞がグループを作り始めることを示すことで、組織化が脳の機能を理解するためにも重要であることを明らかにしました。
今後、組織化という視点から研究を進めることで、運動発現の神経機構の解明、ならびに、各運動野の機能不全による運動障害の病態解明につながることが期待されます。