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April 2018 No.029
心の健康プロジェクト精神保健看護研究室の中西三春研究員が認知症の行動心理症状に対する心理社会的ケアプログラムの効果を実証した論文を国際老年精神医学雑誌( International Journal of Geriatric Psychiatry) に発表しました。
心の健康プロジェクト 主席研究員中西 三春
世界的に認知症の人の大幅な増加が予測されている中、認知症対策は公衆衛生政策における優先課題となっています。(1) 認知症の人の大多数はどこかの段階で「行動心理症状」をもつとされています。(2,3) 行動心理症状は認知機能の障害とともに現れる、興奮や易刺激性、あるいは妄想や幻覚、運動行動、夜間行動といった症状をさします。
行動心理症状は認知症の人の在宅生活を困難にし、施設入所や医療機関への入院のリスクを高める最大の要因です。(4,5) 行動心理症状の減少と予防においては、症状の背景に隠された認知症の人のニーズを適切にアセスメントして、その個別ニーズに応じた心理社会的ケアを提供することが鍵となります。(6) とくに東京都では今後の急速な高齢社会の進展に伴い、認知症の人の大幅な増加が見込まれている中、介護従事者における心理社会的ケアの推進が火急の課題とされています。
心の健康プロジェクトでは、平成28-29年度東京都委託事業「認知症の人の地域生活を支援するケアプログラム推進事業」として、行動心理症状への心理社会的アプローチを促進するケアプログラムを開発し、現場の介護実践に導入しました。
本ケアプログラムは①行動心理症状のモニタリングを支援するオンラインシステム、②オンラインシステムを活用してチームでの一貫したケア提供を遂行する「アドミニストレーター」の養成研修、の二つで構成されています。
アドミニストレーターはオンラインシステムで利用者さんの行動心理症状の評価・行動の背景にあるニーズに応じたケア計画を入力すると共に、ケア計画に基づく実践を経た行動心理症状の再評価およびケアの見直しを継続します。
開発したケアプログラムの有効性を検証する目的で、クラスター無作為化比較試験(RCT)を実施しました。東京都内の3自治体(足立区・世田谷区・武蔵野市)を通じて協力の同意を得られた介護保険サービス事業所(居宅介護支援事業所・訪問看護ステーション・認知症対応型共同生活介護)45か所の介護従事者98名を、無作為に二つの群に割付しました。ケアプログラムを導入する(介入群)事業所では利用者さん141名、通常のケアを実施する(対照群)事業所では142名が行動心理症状の評価対象となりました。
最初の評価から6か月後にかけて、介入群の利用者さんは行動心理症状(NPI-NHという尺度の得点)が有意に減少しました(Δ7.2)。対照群の利用者さんは同じ期間中に行動心理症状の変化がみられませんでした(Δ0.8)。利用者さんの基本属性およびアドミニストレーター(介護従事者)の属性による影響を調整しても、ケアプログラムの導入は行動心理症状の減少と有意な関係があり、ケアプログラムの有効性を示す結果が得られました。
ケアプログラムの今後の普及方策については東京都の施策に沿って進められることとなりますが、広く使われることでご本人を理解するというケアの共通理念が実践に根付き、東京都のどこにいても認知症の人ご本人とご家族が安心して在宅等での生活を継続できるようになることを願っています。