Jul. 2020 No.038
学習記憶プロジェクト 主席研究員宮下 知之
2020年2月10日に、東京都医学総合研究所において第9回都医学研シンポジウム「グリア細胞機能の新展開から脳機能のさらなる理解へ」を開催しました。
グリア細胞とは神経細胞とともに脳を構成する細胞で、形態や機能の違いからアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア等に分類されています。近年、脳の研 究は、新しい研究手法の開発によって大きく変化しようとしています。その中で、これまであまり注目されていなかったグリア細胞の新しい機能が、次々と明らかになってきて います。すなわち、神経細胞の機能や回路だけでは説明できなかった脳内の情報処理や行動の発現が、グリア細胞の機能を明らかにしたことで説明できるようになってきてい ます。
このような中、国内でグリア細胞研究をリードしている4名の研究者に講演をお願いしましたが、コロナウイルスの感染拡大が懸念され始め、コペンハーゲン大学に移られたばかりの平瀬先生は帰国できず、直前でしたが共同研究者の理化学研究所の大江先生に講演をお願いしました。
シンポジウム前半では、都医学研の宮下が、匂い嫌悪連合学習における嫌悪情報を、グリア細胞が記憶中枢に伝えていることを報告しました。次に大江先生にアストロサイ トの細胞内シグナルの可視化と、記憶の定着への関与について、更に名古屋大学の和氣先生に、最新の顕微鏡を使用した、ミクログリアのシナプスの監視や、神経活動のコントロールについてお話いただきました。
後半では、山梨大学の小泉先生に神経障害性疼痛の発症メカニズムにアストロサイトが強く関与していること、次に九州大学の津田先生から、脊髄のアストロサイトが異痛 症の発症に関与していること、更にその治療に向けた薬の開発についてお話しいただきました。
シンポジウムを通して、これまで脳を理解するためには神経細胞同士のコミュニケーションが重要視されてきましたが、今後は神経細胞-グリア細胞間、さらにグリア細胞 -グリア細胞間のコミュニケーションを明らかにしなければ、真の脳機能の理解には到達できないこと、さらにこれらのコミュニケーション異常によっておきる病気の原因究明と治療法の開発にはたどりつけない事がわかり、大変勉強になったシンポジウムでした。