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開催報告

2019年度 第8回 都医学研都民講座 (2020年2月12日 開催)
思春期の心の発達を理解する -生きる力を引き出すために-

社会健康医学研究センター長西田 淳志

2月12日(水)、一橋講堂において、「思春期の心の発達を理解する - 生きる力を引き出すために -」と題して、第8回都医学研都民講座を開催しました。今回は、東京大学医学部附属病院精神神経科教授の笠井清登先生を講師にお迎えしました。

まず、私が、「思春期の経験と環境がその後の人生に与える影響」と題してお話ししました。今日、我が国では100歳を超えてもなお元気な高齢者の方々はけっして珍しくなく、「100歳時代の到来」などといった言葉も巷ではよく聞かれるようになっています。最近の研究では、人がその長期的人生を振り返るとき、思春期の経験とその記憶が、特に鮮明に思い出されることが明らかになっています。思春期には、テストステロンなどの第二次性徴ホルモンが体内に分泌され、それが情動をつかさどる脳領域を活性化し、喜怒哀楽といった感情の起伏をさらに強めることがわかっています。この強い感情体験とつながった思春期の記憶は、長く保持されやすいと言われています。思春期には、その後の人生の土台となる様々な経験を重ねます。その際の挫折体験や成功体験などが強い感情と共に記憶され、人の価値意識の形成に大きな影響を与えると考えられています。人生という長期的生活行動を人はどのように選択するのか、その際の動因(モチベーション)となる「主体価値」は、思春期にどのように形成されていくのか。こうした課題を解明すべく、現在、たくさんのお子さんの思春期の発達状況を調査しています。私たちが東京大学の笠井先生らと共同で行っている大規模思春期コホート研究(東京ティーンコホート)では、都内3つの自治体に居住する 3,000名を超す10代の子どもを対象に長期的な追跡を継続し、思春期の心の発達を支える要因の解明を進めていることを紹介させていただきました。

続いて、笠井先生に、「思春期 : どう生きるかをなやみ、ためす時期」と題して、ご講演いただきました。思春期というライフステージは、霊長類と比べてヒトで際立って長く、大脳新皮質の成熟の最終段階であり、同時に、児童期までの親子関係から、仲間とのより多様な経験で結ばれた社会関係へと発展する決定的な時期であるとのお話がありました。東京都医学総合研究所との共同研究である東京ティーンコホートから、思春期に親以外の多くの大人や年上の仲間と接し、ロールモデル(自分もこうなりたいと思う理想像)を獲得・更新していくことが、主体価値形成においてとても重要とのお話もありました。講演後のアンケートでは、「現在、思春期にある自分の子どもと接するにあたり、大変参考になった。」といった御意見を多く頂きました。

講演の様子
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