東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2017年

TOPICS 2017

リタリンの作用機序の解明

2017年2月2日

米国科学誌「The Journal of Neuroscience」on-line版に児玉 亨副参事研究員らが「認知作用薬の使用・開発に重要なインパクトを与えるリタリンの作用機序の解明」について発表し、F1000Primeに選出されました。


※ F1000(Faculty of 1000)は、約5000人の生物学・医学の分野を代表する世界的な研究者によって構成されており、この構成員によって優れた論文として推薦されたものが 「F1000Prime」 に選出されます。

認知作用薬の使用・開発に重要なインパクトを与えるリタリンの作用機序の解明

2017年2月2日に米国科学誌「The Journal of Neuroscience」on-line版にEarly releaseとして掲載されました。
http://www.jneurosci.org/content/early/2017/02/02/JNEUROSCI.2155-16.2017

ADHDの治療薬であるリタリン(メチルフェニデート)は、最近ではむしろ認知機能を高める「認知能力増進薬」として特にアメリカの若者などに広く用いられている。大脳前頭連合野における神経伝達物質ドーパミンは認知機能に極めて重要な役割を果たすことが知られている。リタリンはドーパミン再取り込み阻害により前頭葉ドーパミン量を増やすことで認知能力増進機能を担っているのではないかと言う仮説がある。これまで前頭連合野が未発達なネズミではリタリン投与によって、ドーパミン増加は認められるものの、人では技術的理由でこれまで線条体でしかドーパミン増は調べられて来なかった。渡邊正孝らのグループは前頭連合野が比較的よく発達し、人により近いサルにおいてマイクロダイアリシス法を用いて認知機能におけるドーパミンの役割を探っている。本報告ではリタリンが前頭連合野ドーパミンを増やすかどうかを調べた。その結果、人で認知機能増進に至適用量とされるリタリン投与では、線条体では顕著な増加が認められたものの、前頭連合野では有意な増加が認められなかった。

適量のリタリン投与では、ワーキングメモリー、行動抑制、セルフコントロールなど様々な認知課題でサルの成績は向上した。一方、適量を超える多量のリタリン投与では、前頭連合野で有意なドーパミンの増加が認められたが、サルは不活発になり、課題遂行が阻害された。このことは適量のリタリンが前頭連合野のドーパミン増によってではなく、線条体のドーパミン増、あるいはそれに付随する前頭連合野の働きの変化により認知機能増進をもたらしていることを示している。

近年はリタリンに限らず、いろいろな薬物、また脳の電気・磁気刺激により認知機能向上を目指す「認知ドーピング」についてその倫理的な問題とともに健康への影響について多くの議論がある。リタリンは、前頭連合野ドーパミンの働きを高め、抑制機能を高めることによりADHDの多動を抑え、落ち着きをもたらす、と考えられてきた。今回の研究は、過剰量のリタリン投与による前頭連合野のドーパミン増は認知機能をむしろ下げることになるなど、リタリンの作用機序に関して新たな知見を提供し、認知作用薬の使用・開発に重要なインパクトを与えるものと考えられる。


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