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研究紹介

前頭前野と大脳基底核の連携による高次脳機能のしくみ

米国科学雑誌「The Journal of Neuroscience」に前頭葉機能プロジェクトの星英司副参事研究員らの研究成果が発表されました。

前頭葉機能プロジェクトリーダー星 英司

脳は複数の部位から構成されており、これらを結ぶ複雑なネットワークを形成しております。私たちの研究チームは、額の後ろにある前頭葉と脳の深いところにある大脳基底核が形成するネットワーク(図)に注目して、研究活動を展開しております。パーキンソン病では、ドーパミンという物質が減ってしまうことによって大脳基底核の機能に問題が生じ、それに伴って前頭葉の運動を司る部位の機能が損なわれます。そのため、パーキンソン病の患者さんは思うように体を動かすことができなくなります。これは、前頭葉と大脳基底核のネットワークが正常の脳機能の達成において極めて重要であることを示します。

今回の研究では、前頭葉の最前部にある前頭前野と大脳基底核のやりとりに注目しました。前頭前野は記憶や意思決定といった高次脳機能において中心となる脳部位です。前頭前野が大脳基底核とネットワークを形成していることは知られておりましたが、その連携のしくみは不明でした。

まず、日常生活をヒントに、行動の目的決定と動作選択といった高次脳機能を必要とする認知行動課題を考案しました。私たちは赤信号を見ると、止まることを行います。自転車を運転している場合にはブレーキレバーを握ることを、自動車を運転している場合にはブレーキペダルを踏むことを行います。従って、赤信号によって指示された「止まる」という目的を、適切な動作を選択することによって達成するとみなすことができます。次に、このような主題からなる課題を行なっているサルの前頭前野と大脳基底核の神経活動を記録したところ、双方が目的決定と動作選択に関与することが明らかとなりました。しかし、以下の点において、その関与の仕方が異なっておりました。

1)大脳基底核は目的決定や動作選択を行う節目において選択的に情報処理に参加する。

2)前頭前野は、目的決定や動作選択に加えて、決定された目的や選択された動作の記憶に関与する。

高次脳機能を達成するにあたって、「決定や選択」と「結果の記憶」という二つの要素が重要となります。今回発見された役割分担は、前頭前野と大脳基底核が連携することによって初めて「決定や選択」と「結果の記憶」の両者が達成されること、特に、前頭前野と大脳基底核のやり取りが「決定や選択」の過程に重要であることを明らかとしました。さらに、続いて行われた研究では、前頭前野と大脳基底核の両者が、「自分が何をしようとしているのかを忘れない」ために、実際の動作中にも行動の目的を反映することが明らかとなりました。

Saga Y, Hashimoto M, Tremblay L, Tanji J, Hoshi E (2013) Representation of spatial- and object-specific behavioral goals in the dorsal globus pallidus of monkeys during reaching movement. J. Neurosci. 33:16360-16371 doi: 10.1523/JNEUROSCI.1187-13.2013.

Arimura N, Nakayama Y, Yamagata T, Tanji J , Hoshi E (2013) Involvement of the globus pallidus in behavioral goal determination and action specification. J. Neurosci. 33:13639-13653 doi: 10.1523/JNEUROSCI.1620-13.2013.

図

サル脳の模式図。人とサルの前頭葉には、前から後に、前頭前野、高次運動野、そして、一次運動野がある。脳の深部にある大脳基底核は線条体や淡蒼球といった複数の核から成っている。線条体は前頭葉から入力を受けとり、大脳基底核からの出力は視床を介して前頭葉へ送られる。前頭前野が大脳基底核と構成するネットワーク(→で示す)は、高次脳機能に関与する。一方で、パーキンソン病では、大脳基底核が高次運動野や一次運動野と形成するネットワークに問題が生じる。

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