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研究紹介

エンテロウイルス71神経病原性マウスモデルの確立

米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」にウイルス感染プロジェクトの小池智副参事研究員、藤井健研究員らの研究成果が発表されました。

ウイルス感染プロジェクト 主任研究員藤井 健

エンテロウイルス71(E71)は毎年夏に流行する手足口病の原因ウイルスの1つです。稀にEV71は中枢神経系合併症を起こします。近年、アジア太平洋地域での大流行により、2000を超える死亡例が報告されており、我が国においても大流行時には死亡者が出ることが危惧されています。しかし、適した感染動物モデルが存在しないため、神経病原性発症機序は解明されておらず、またワクチン・抗ウイルス薬の開発に至っていません。これまでに我々は、EV71の感染成立に必要な受容体を同定し解析を行ってきました。今回、ウイルス受容体をマウスに発現すると、EV71に対して感受性を獲得し、ヒトと類似の中枢神経系合併症を起こすことを示しました。

私たちはEV71感染受容体であるヒトSCARB2を発現するトランスジェニックマウス(hSCARB2-Tgマウス)を作製しました。このhSCARB2-TgマウスにEV71を感染させると、感受性を示し、弛緩性麻痺などの中枢神経系合併症を引き起こしました。また神経症状を示したhSCARB2-Tgマウスの中枢神経系でウイルス増殖が見いだされ、かつEV71は神経細胞に感染していることが明らかになりました(図)。これらの結果から、このhSCARB2-TgマウスはEV71感染に対してヒトと類似した中枢神経系合併症を示す、よいEV71神経病原性マウスモデルであると考えられます。

本研究で確立したマウスモデルはEV71神経病原性発症機構の解明に役立つだけでなく、ワクチン・抗ウイルス薬評価系の確立にも貢献できると考えられます。

Fujii K, Nagata N, Sato Y, Ong KC, Wong KT, Yamayoshi S, Shimanuki M, Shitara H, Taya C, Koike S(2013) Transgenic mouse model for the study of enterovirus 71 neuropathogenesis. Proc Natl Acad Sci USA.110:14753-14758. Doi: 10.1073/pnas.1217563110.

図1
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