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開催報告

第4回都民講座「トラウマ・PTSD・喪失による悲嘆からの回復」

公益財団法人東京都医学総合研究所・副所長飛鳥井 望

飛鳥井 望

本講座では、トラウマや悲嘆からの回復について、最近の知見に基づいてわかりやすく解説しました。トラウマとなる出来事には、災害、 重大事故、 暴力、 性暴力、 戦闘、 虐待などがあり、それらの出来事を原因とした特徴的な症状がPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。

トラウマ体験後の早期のケアのポイントは、「安心感、落ち着き、自己とコミュニティの効力感、人とのつながり、希望」といわれ、このような考え方に沿ってサイコロジカル・ファーストエイドといわれる精神援助が被災者や被害者に広く行われるようになりました。

PTSDの病態メカニズムをめぐる有力な脳科学仮説では、恐怖反応をつかさどる扁桃体の過剰活性と、それを制御する内側前頭前野の機能不全の関与が想定されています。そのような仮説にも見合った治療法が認知行動療法としての曝露療法であり、トラウマ記憶にあえて向き合い、また不安恐怖から回避している事物・状況に徐々に近づき馴らしていくようにします。さらにPTSDの背景にある否定的認知(無力感、自責感など)の修正をはかります。その他、抗うつ薬のSSRIによる薬物療法も効果があります。

一方、かけがえのない人を喪った悲嘆からの回復とは、死の現実を受け止め、思い出に苦痛なくアクセスでき、故人を心の中で身近に感じ、罪悪感や後悔あるいは怒りが鎮まり、同時に新たな環境に適応する道のりです。

回復とは, 以前の自分に戻ることではなく, 新しい自分を育む道のりなのです。

(副所長{心の健康プロジェクト・リーダー} 飛鳥井 望)

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