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Jan. 2017 No.024
米国科学雑誌 「Molecular Cell(モレキュラー セル)」 に田中啓二所長らの研究成果が発表されました。
蛋白質代謝研究室 主席研究員大竹 史明
「ユビキチン」は非常に興味深い性質を持ったタンパク質です。ユビキチンを介するタンパク質分解経路の発見は2004年ノーベル化学賞の受賞対象となりました。しかしユビキチンの役割はタンパク質の分解だけではなく、病原菌に対する細胞の炎症反応や、DNA損傷の修復反応を促進させるなど、様々な重要な役割を担っていることが近年急速に明らかになってきました。ユビキチンの機能に異常が生じると、がんや免疫疾患、神経変性疾患につながることがわかっています。ユビキチン経路の阻害による疾患の治療薬開発の臨床研究も始まっています。
ユビキチンは細胞内で、鎖状につながった「ユビキチン鎖」を形成して作用します。私たちは、ユビキチン鎖の形態を厳密かつ定量的に解析してきました。その結果、ユビキチンが一列の鎖状に連なるだけではなく、2か所で枝分かれした形状(分岐型)のユビキチン鎖を見出しました(図参照)。
さらに、枝分かれしたユビキチン鎖が、免疫応答や炎症反応を制御する中心的なタンパク質であるNF-κB経路の信号伝達に関与すること、そしてこの分岐型ユビキチン鎖は枝分かれしていないユビキチン鎖に比べて切断による不活性化を受けにくいため、より強固に信号を伝えてNF-κBを活性化することがわかりました。
タンパク質に連結したユビキチン鎖を示す。ユビキチンは一列の鎖状に連なるだけでなく(緑色で示した連結)、枝分かれした構造をとることが定量解析の結果明らかとなった(赤色で示した連結)。
今回の研究から、ユビキチン鎖はこれまで考えられていた以上に様々な構造多様性をもつことがわかりました。それにより、炎症反応などの生命現象が緻密に調節されていると考えられます。ユビキチンはがんや免疫疾患など様々な疾患に関連します。したがって、ユビキチンの作用機構の包括的な理解は、将来的に、未解明の疾患の発症機構解明や治療法開発に繋がることが期待されます。
Ohtake F, Saeki Y, Ishido S,Kanno J, Tanaka K.
The K48-K63 branched ubiquitin chain regulates NF-κB signaling.
Mol Cell. 2016 Oct 20;64(2):251-266
doi: 10.1016/j.molcel.2016.09.014