HOME > 広報活動 > 刊行物 > Jan 2017 No.024
Jan. 2017 No.024
米国科学雑誌 「Nature Reviews Drug Discovery(ネイチャーレビューズドラッグディスカバリー)」 にカルパインプロジェクトの小野弥子副参事研究員、反町洋之参事研究員らの総説が発表されました。
カルパインプロジェクト 副参事研究員小野 弥子
カルパインはタンパク質の活性や機能を調節するタンパク質切断酵素です。多くのヒト疾患で、カルパインの阻害剤が有効な治療薬として研究・開発されています。一方、ヒトでは15種のカルパインが様々に機能し、その遺伝子変異が筋ジストロフィー、食道炎などの病態(カルパイノパチー)を発症します。そのため、カルパインの機能補完も治療戦略に加わってきました。
カルパインに対して、治療薬剤として通用する特異性の高い阻害剤の開発は非常に困難です。しかし、カルパインが分解する相手タンパク質(基質)を識別するルールの理解が進み、その”困難さ”を克服するアプローチが具体化してきました。また、様々な疾患の分子機構が解明されるに伴い、カルパイン阻害剤の効果や安全性のより正確な判断が可能となりました。カルパイノパチーの研究についても、カルパインを標的とする薬剤開発と相乗的に発展していくことが予想されます。
15種類のカルパインの中で、最も量が多くほとんどの細胞に存在するものを標準型カルパインと呼ぶ。
標準型カルパインは、二つのサブユニットから構成されており、サブドメインPC1とPC2の相対的位置変化により活性化構造をとる。その過程を特異的にブロックすることが阻害剤の条件である。
最近、新規のカルパイノパチーの報告が相次ぎ、カルパイン阻害剤が治験に用いられるなど、カルパイン研究が急速に多様化してきました。生理的役割が未だに不明で機能解明を待つカルパイン分子種も多数あります。カルパインに関する新たな知見が示された時、それが深く理解され、疾患の発症機構解明や治療法開発につながることを願って、これまでの知見をまとめました。
Ono Y, Saido TC, Sorimachi H.
Calpain research for drug discovery: challenges and potential.
Nat Rev Drug Discov. 2016 Dec;15(12):854-876.
doi: 10.1038/nrd.2016.212.