HOME広報活動刊行物 > Jan 2017 No.024

研究紹介

細胞外リン脂質代謝酵素sPLA2分子群の免疫応答における多彩な役割

免疫学領域において権威のある米国総説誌 「Advances in Immunology」 (アドバンスインイムノロジー)に脂質代謝プロジェクトの村上誠参事研究員、武富芳隆主席研究員らの総説が発表されました。

脂質代謝プロジェクトリーダー村上 誠
主席研究員武富 芳隆


1.研究の背景

私たちは脂質の役割を解明すべく、リン脂質分解酵素ホスホリパーゼA2 (PLA2) 群の研究を進めてきました。特に、細胞外に分泌されるSecreted Phospholipase A2 (sPLA2) の新機能について、ここ数年に渡って当該研究領域をリードする成果を報告してきました。本総説では、これまでの当プロジェクトの発見を中心に、免疫応答におけるsPLA2分子群の役割に関する世界の研究動向を解説しました。


2.研究成果の概要

sPLA2ファミリーには、図1の分子系統樹に示すような11種のアイソザイムが存在します。本総説では、sPLA2の分類や局在を説明した後、特に免疫応答を中心に、各アイソザイムがどのようなリン脂質を標的基質とし、どのような生理活性脂質を動員し、いかなる生命応答や病態に関わるかについて解説しています。sPLA2-IIAは細菌の膜を分解して感染防御に関わる一方で、膜小胞(microparticle)のリン脂質からアラキドン酸代謝物を動員して炎症を増悪します。sPLA2-IIDはリンパ節において抗炎症性のω3脂肪酸代謝物を動員して乾癬や接触性皮膚炎を抑制しますが、一方で抗感染免疫や抗腫瘍免疫も抑えてしまうためウイルス感染や癌を増悪します。sPLA2-IIFは皮膚において特殊なリゾリン脂質を動員して乾癬などの表皮肥厚疾患の増悪に関わります。sPLA2-IIIはプロスタグランジンD2を動員してマスト細胞の成熟を促すことで、アナフィラキシー応答を促進します。sPLA2-VはTh2免疫応答を促進するとともに、リポタンパク質からオレイン酸を遊離して肥満に伴う脂肪組織の炎症を抑えます。sPLA2-Xは、気道ではロイコトリエンを産生して喘息の増悪に関わりますが、大腸ではω3脂肪酸を動員して大腸炎を抑えます。本総説ではそれぞれの生命応答について、各sPLA2の発現部位や脂質の動態を分かりやすく図解しています。


3.発見の意義

各sPLA2アイソザイムや動員される責任脂質産物を標的とした戦略は、様々な疾患の新規創薬につながることが期待されます。

図1 PLA2反応(A)とsPLA2の分類(B)。参考文献の図1を改変。

PLA2反応(A)とsPLA2の分類(B)

参考文献

Murakami M, Yamamoto K, Miki Y, Murase R, Sato H, Taketomi Y.
The roles of the secreted phospholipase A2 gene family in immunology.
Adv Immunol. 2016;132:91-134.
doi: 10.1016/bs.ai.2016.05.001.

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